オートクチュールか、ユニクロか?日本のIT産業が弱い理由は“オーダーメイド信仰”にある

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ソフトウェア開発の世界は、しばしば「オートクチュール」と「ユニクロ」にたとえることができます。

一着ずつセレブのために仕立てられるオートクチュールのように、顧客の要望を丁寧に聞き取り、ゼロから作り上げるシステム。一方で、既製服として市場に並ぶプレタポルテ(量産品)、大量生産と効率化を極めたファストファッションとしてのユニクロのように標準化された部品を組み合わせ、大量に提供される均一なサービス。あなたの仕事はどちらで、日本のIT産業はどちらに偏っているのでしょうか?


オートクチュール型のソフトウェア開発

オートクチュールは一点物。価格は洋服1点が1000万円以上することも珍しくなく、無尽蔵に資金を投じられるセレブが顧客です。

ソフトウェア開発におけるオートクチュールも同様で、企業ごとの特殊な業務フローに合わせ、時間とコストをかけてシステムを構築します。

しかしここで重要なのは、顧客が本当に「セレブ」なのかという点です。

資金が潤沢でない企業にオーダーメイドの開発を提供し続けると、必ずコスト過多に陥り、ビジネスモデルとして成り立ちません。


プレタポルテという現実的な選択肢

多くの顧客にとって必要なのは、オートクチュールではなく「プレタポルテ」=一般的な量産品です。十分に洗練され、標準化され、誰もがすぐに利用できる既製品のシステムやパッケージ。

本来であれば発注者も開発者も、まずはこうした量産品を活用し、必要に応じて一部をカスタマイズするのが合理的です。

ところが日本では、顧客も開発者も「オーダーメイドでなければ価値がない」という思い込みを持ち、毎回ゼロから作り直してしまいます。


IT業界のユニクロ型

そしてその先には「ファストファッション=ユニクロ型」があります。

Google、Amazon、Microsoft、Salesforce などの大手が提供するサービスはまさにこの領域です。

効率化とスケールを徹底し、誰でも手に入れられる価格で世界中に均一なサービスを届ける。ちょっとした機能で桁違いの多くのユーザが利用しているため、開発コストはほぼ無視できます。

基盤として広く普及し、多くの企業の競争力を支えるのはこの「ユニクロ型」のソリューションです。

既存のパーツを効率よく組み合わせ、スケーラブルで安価なサービスを世界中に展開し、その仕組で誰もが使える共通基盤を整備し、無駄を削ぎ落とした仕組みを持つことで、莫大な利益を生み出しているのです。


日本のIT産業が弱い理由

日本のIT産業が弱いのは、発注者も開発者も「自分たちはセレブではない」と認めず、オートクチュールに固執してしまうからです。

この「オーダーメイド信仰」こそが、日本のIT産業の生産性を押し下げている最大の理由です。


まとめ

顧客がセレブでなければ、オートクチュールは選ぶべきではありません。

多くのケースではプレタポルテ(量産品)を活用し、必要に応じてカスタマイズすれば十分です。さらにクラウドやSaaSといったファストファッション=ユニクロ型を取り入れることで、生産性と競争力を飛躍的に高めることができます。

「自分はセレブではない」という自覚を持ち、既製品を賢く使う発想に転換する。それこそが、日本のIT産業が本当に強くなるための第一歩なのです。

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