近年、「996(朝9時〜夜9時、週6日労働)」や「ライフワークバランスなんていらない」という主張が、首相や経営者層の言葉として話題になることがあります。多くの経営層の人から共感の声も聞きます。
しかし、これらの発言を無批判に受け止めるべきではありません。
なぜなら経営者と従業員は、そもそも立場も責任も役割も違うからです。
■ 経営層は従業員とは違う存在
経営層は「従業員」ではありません。
自分の責任でいくらでも働けばいいし、究極的には仕組みさえ作れていれば働かなくてもよい立場です。
だからこそ、経営者が深夜まで働こうが、休日返上しようが、それは「自分の自由」「自分の責任」です。
しかしそれを「ほら、オレはこんなに働いている!」という“見せるパフォーマンス”に使い、ロールモデルとして部下に押し付けるのは、ただの弱さです。
立場を区別しない議論は、最初から成立しません。
■ 日本政府=売上の10倍借りてる“破綻寸前企業”
日本政府は、企業にたとえれば売上の10倍もの借り入れがある会社です。そのような組織のトップが結果がでるまで、休み返上で働くのは仕方がないことです。
そうした“火の車”状態の組織のトップが「自分は休まない」と宣言すれば、明言がなくとも
“だから皆も休まず働くべきだ”
という同調圧力につながります。
特に日本人は空気を読みがちなので、トップが休まない宣言をしそういう姿勢を見せれば、現場は空気を読み、結果として“休日返上で働く”以外の選択肢を奪われていきます。
つまりトップの姿勢が暗黙の強制労働の構造を作ってしまう。
借金まみれの会社が、社員に過度な働きを求めてしまうのはある意味“自然な反応”ですが、だからといってそれが健全で正しいわけではない。
トップが休み返上で働くのは仕方ないのですが、そのことを大々的に宣言する必要はまったくありません。
■ 経営者の仕事は「働かせる」ことではなく仕組みづくり
成果を生むのは、個々人の根性や気合いではなく、仕組み・環境・分業・再現性です。
TOP の役目とは「みんなが楽しく働ける仕組みを作ること」
社員が自発的に頑張るのは止められません。しかし、強要したり、それを推奨することはあってはならない。トップが休まないと公言することは、従業員に時間外労働を推奨していることと、なんら変わりがないのです。自身の発言の影響力の大きさを考慮できない、ということも大きな問題です。
社員は自分の人生のために働いている
経営者の夢を叶えるために働いているわけではない
仕事が好きな人もいれば、
人生を大切にしたい人もいる。
どちらも正しい。
■ 結果が出ないなら仕組みが悪い
社員の労働時間を伸ばして成果を出すのは、マネジメントとしては最低ランク。
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機械化
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分業化
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権限移譲
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人を増やす
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仕組み改善
本来はこうした手段で、時間内で成果が出るように設計するのが経営者の仕事です。
■ 996 が成立する条件は「超短期 × 莫大なリターン」
シリコンバレーのスタートアップや中国のハイパーグロース企業では
996 が成立した事例もありました。
しかし、それは
✅ 莫大なリターン
✅ 短期的な勝負
✅ 産業が拡張中でレバレッジが効く
という特殊な条件下だから成立しただけです。
報酬も成長もないのに996 をやらせるのは、ただの搾取です。
■ 過剰労働を容認すると、人が死ぬ
過労は「覚悟」や「やる気」ではなく、医学的に“人が死ぬ”。
働くほど成果が出るならまだしも、過剰労働は
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生産性低下
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判断力低下
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事故
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離職
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メンタル不調
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家庭崩壊
など、社会全体に悪影響を与えます。
「死なない程度に働け」ではなく、死者を出さない仕組みを作ることが必要です。
■ 「背中を見せる」は、黙って示すこと
「経営者は背中を見せろ」という言葉があります。
ここでいう「背中」とは、仕事観・姿勢・誠実さであり、夜遅くまで働く姿を誇示することではありません。
「ほら、オレは頑張ってる!」とアピールするのは背中ではなく、泣き言です。
まとめ
✅ 経営者は従業員とは立場が違う
✅ 自分が働くのは自由だが、強要・推奨はNG
✅ トップの姿勢が“暗黙の強制”を生む
✅ 結果が出ないなら仕組みが悪い
✅ 仕組みづくりこそトップの仕事
✅ 996は特殊条件でのみ成立
✅ 過剰労働を容認すると人が死ぬ
成果は仕組み × チームによって生まれる。
働き方の議論は、
まずこの前提を揃えることから始めるべきです。