日本のスタートアップを静かに蝕む “ベンチャーデット依存” の構造

日本のスタートアップを静かに蝕む “ベンチャーデット依存” の構造

── EXITの小ささ、リビングデッド化、そして国内市場という天井について最近、りそな銀行が「ベンチャーデットを3年間で1,000億円まで増やす」と発表した。ニュースだけ読むと「銀行がスタートアップを応援してくれるのは良いことだ」と感じるかもしれない。実際、資金調達の選択肢が増えるのは素直にありがたい。

ただ、これをもう少し引いて見ると、別の景色が見えてくる。**なぜ今、日本でベンチャーデットがブームになっているのか。

そして、それは本当に“健全な状態”なのか。**この辺を整理してみたい。


■ ベンチャーデットが増えている理由

スタートアップが借金で資金を調達する仕組みを「ベンチャーデット」と呼ぶ。日本ではここ数年で一気に広まった。

銀行側からすると、これは実はかなり“おいしい”商売だ。

つまり、大きく儲からなくても、安定して返してくれそうな相手に貸すという構図ができあがっている。

これは銀行にとっては理にかなっている。


■ でも、ここに問題の核心がある

じゃあ、なぜ銀行から見るとそんなに“安定して返してくれそう”なのか。

その答えはシンプルで、**「そもそも日本のスタートアップは伸びないから」**もちろん例外はある。

だが、全体を見ると多くの企業はシリーズB〜Cぐらいで成長が鈍り、売上が頭打ちになる。

理由はいくつかあるが、最も大きいのはこれだ。

国内市場が小さすぎる。

シンプルすぎて逆に見落としがちな事実。

プロダクトの質が悪いとか、マーケティングが弱いとか、そういう話ではない。日本という市場そのものの“物理的な限界にぶつかるのだ。


■ VC投資額 > IPO時価総額 という歪な構造

日本では、**1年間のVC投資額のほうが、

1年間のIPOで生まれた時価総額より大きい**という“逆転現象”が起きている。

これはかなり異常だ。

本来、スタートアップは

という循環で回る。

ところが日本では、入口(VC投資)より出口(IPO評価)が小さい。

つまり**VCが入れたお金を市場が回収できていない。**結果として、VCは大きなEXITを生めず、次のラウンドも渋くなる。


■ そこにベンチャーデットが入り込む

VCが投資しにくい。

だが会社としては資金が必要。

そこで銀行がスッと現れて、こう言う。

「株式じゃなくてもいいよ、貸しましょうか?」

銀行にとってみれば、

“急成長しないが、倒産もしない企業”は最も貸しやすい。

スタートアップにとってみれば、

“株を薄めたくない”“短期的にお金が要る”という課題を解決してくれる。

つまり、VCの弱さ × 日本市場の小ささ が、デット依存を促している。---

■ では、その結果どうなるか?

ここで怖いのは、

成長しないけど死なない企業が大量に生まれること。

いわゆる**“リビングデッド”**だ。

これが続くと、市場全体としての活力が失われていく。


■ 日本のスタートアップは“外に出ないと詰む”

冷静に考えると、答えはとても明快で、**日本だけで戦うと売上の天井に当たる。**どれだけ優れたプロダクトでも、

日本市場では ARR 10〜30億円あたりで伸びが止まるケースが多い。

人口は減り、高齢化が進み、B2BのIT予算は欧米の1/5以下。

そのなかで「国内だけでユニコーンに」と考えるのは、

ちょっと無理がある。

だから本来は、最初から海外市場を想定して会社をつくるべきというだけの話なのだ。


■ ベンチャーデットそのものは悪くない

誤解して欲しくないのは、ベンチャーデットそのものは良い金融手段だということだ。

正しく使えば、むしろ武器になる。

問題は、**デットが必要になる根本原因=国内市場の限界に向き合おうとしていないこと。**この“構造問題”を放置したままデットだけ増やすと、

日本のスタートアップはどんどん“延命装置”に繋がれた状態になる。


■ 最後に

りそなが1,000億円のデットを投じるのは良いニュースだと思う。

ただ、それは“表層の問題”への対処でしかない。

本当に変えるべきなのは、**スタートアップが外に出ていく力。

そして、それを後押しする資本市場の設計。**日本はPMFを作るには最適な国だ。

でも、スケールするには狭すぎる。

国内市場の限界を前提にしない会社は、どこかで止まる。

そして止まった会社ほど、デットに頼りやすい。

そうならないためには、

「日本で作り、世界で売る」という当たり前の流れを、

もっと普通の選択肢にしなくてはいけない。

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