「締め切り」は信用そのものだ――バッファを奪う“締切遅延社会”の構造

「締め切り」は信用そのものだ――バッファを奪う“締切遅延社会”の構造

仕事には必ず締め切りがある。しかし、現実には「締め切りを過ぎても交渉すればなんとかなる」「実際なんとかなってきた」という経験則を持つ人が少なくない。そのため、締め切りに間に合わせないことに抵抗が薄れ、過ぎてから連絡し、そこで初めて動き始める――そんな光景は珍しくない。

中には「締め切りは少し過ぎても大丈夫」とアドバイスする人までいる。だが、立場が変わり、自分が締め切りを設定する側になると、その認識が大きな誤解であることに気づく。


■ バッファは“余裕”ではなく“他者のコスト”

本来、締め切りには無駄なバッファを入れたくない。なぜなら、バッファを積むほどプロジェクト全体の時間やコストが膨らむためだ。しかし現実には「締め切りを守らない人が一定数いる」ため、やむなくバッファを設定せざるを得ない。

その結果、

つまり、締め切りを守らない行為自体が、他者のリソースと時間を奪っている。


■ 締め切りを守らない人が受ける“静かなペナルティ”

締め切りを過ぎてもなんとかしてもらえる――その成功体験は本人にはメリットに見えるかもしれない。しかし、周囲は確実に次のように評価する。

特に、

「締め切り厳守」「クオリティ向上のための前倒しが必要」

というタスクは絶対に回ってこない。

理由は明確だ。締め切りを守らない人に重要業務を預けると、プロジェクト全体が停止し、他者にも連鎖的な損失が生じるからである。

組織の中では、こうした人物は“静かにリスト化”される。表立って非難されることはないが、確実に重要な仕事の候補から外されていく。


■ 信用は「締切厳守」の累積でしか築けない

締め切りとは、単に「期限」ではなく、相手からの信用を数値化したものと言ってよい。

余裕をもって納品すれば、フィードバックが入り、より良い成果が出る。プロジェクトの成功確率も上がる。逆に、遅れれば遅れるほどブラッシュアップの機会は消え、成果物の質にも跳ね返る。

締め切りを守るという行為は、仕事の基本動作でありながら、本人の信用残高を増やす最も手堅い投資だ。


■ 結論:締め切りは「守られて当然」ではなく「守ることで信用が積み上がる」

締め切りを破っても、最初は誰かが助けてくれる。しかし、**その“救済”こそが相手の負担であり、組織全体のコストである。**そして、その負担を繰り返し背負わせていることを周囲はよく見ている。

締め切りを守る人には、重要な仕事が集まる。

締め切りを守れない人には、重要な仕事は決して集まらない。

締め切りへの姿勢は、ビジネスパーソンとしての信用そのものだ。

「間に合わせる力」が、高い評価と信頼をつくり出す。

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