情報漏洩対策の最善手は「持たないこと」 — 持つなら何がどれだけ危ないかを 6 段階で整理する

情報漏洩対策の最善手は「持たないこと」 — 持つなら何がどれだけ危ないかを 6 段階で整理する

情報漏洩対策でいちばん確実な方法は、情報を持たないことです。暗号化もアクセス制御も、持っているデータを「漏れにくく」するだけで、ゼロにはしません。持っていないデータは、どんな攻撃を受けても漏れません。

とはいえ、サービスを作れば何かしらのデータは持つことになります。そこで次に大事なのが、持つなら本当に必要なものだけを、必要な期間だけにすることです。そして、そのためには「どのデータがどれくらい危ないか」の物差しが要ります。

本稿はその物差しのたたき台です。

先に結論を書きます。

1. 物差しの根拠になるもの

危険度を決めるときに使える資料は、主に次の 3 つです。

根拠 何を決めているか 設計での使い方
個人情報保護法(施行規則と、個人情報保護委員会のガイドライン) 漏えい時に委員会への報告と、原則として本人への通知が必要な類型 報告義務がある類型を「高リスク」とみなす
PCI DSS v4.0.1 カード情報の項目ごとに、保存してよいか・どう守るか カード情報の扱いはこれに従う
NIST SP 800-122 個人を特定できる情報(PII)の影響度を低・中・高で評価する考え方 法律が決めていない部分の判断に使う

個人情報保護法の漏えい報告義務

個人情報保護法第 26 条と施行規則第 7 条により、次の 4 つのどれかに当たる漏えい(漏えいのおそれを含みます)は、委員会への報告が義務になり、本人への通知も原則として義務になります(本人への通知が難しく、代わりに本人の権利利益を守る措置をとる場合は除かれます。法第 26 条第 2 項)。例は委員会のガイドライン(通則編)によります。

  1. 要配慮個人情報(病歴、犯罪歴、信条、人種など)が含まれる
  2. 不正に使われると財産的な被害が出るおそれがある(例: EC サイトからのクレジットカード番号の漏えい、送金や決済ができるサービスのログイン ID とパスワードの組み合わせの漏えい)
  3. 不正の目的によるおそれがある(不正アクセスや内部不正など)
  4. 本人の数が 1,000 人を超える

1 と 2 は「データの種類」で決まり、3 と 4 は「漏れ方と規模」で決まります。設計時に効いてくるのは 1 と 2 です。この 2 つに当たるデータは、件数にかかわらず、漏れた(漏れたおそれがある)時点で報告義務が生じる、と考えておきます。

なお、高度な暗号化などの措置を講じた個人データは、4 つすべてで報告の対象から外れます(施行規則第 7 条第 1 号の括弧書きが、条全体に及ぶ定め方になっています)。ただし条件があります。委員会の Q&A(Q6-19)によれば、その時点の技術水準で、第三者が読める状態にすることが困難な暗号化(電子政府推奨暗号リストや ISO/IEC 18033 などに載っている暗号技術を適切に実装したもの)であることに加えて、次のどれかを満たす必要があります。

  1. 暗号化した情報と復号鍵を分けて置き、鍵そのものが漏れないようにしている
  2. 遠隔操作で、暗号化した情報か復号鍵を消せる
  3. 第三者が復号鍵を使えない設計になっている

データと鍵を同じサーバーに置いていれば、1 は満たしません。その場合は 2 か 3 を満たすかどうかを、Q&A の条件に照らして確かめることになります。設計で狙いやすいのは、鍵をデータと別の場所(鍵管理サービスなど)に置いて 1 を満たすことです。暗号化は「漏れにくくする」だけでなく、条件を満たせば「漏れても報告案件にしない」効果もあります。

2. データ危険度 6 段階

以上を踏まえた、設計判断のためのたたき台です。

レベル 例 設計方針
5: 保持しない前提 カード番号・有効期限・セキュリティコード、パスワード、API キー・秘密鍵・セッショントークン、暗証番号 カード情報は決済代行のトークン化で持たない。パスワードと、自社が発行して照合だけに使うトークンは、平文で持たずハッシュだけを持つ。署名用の秘密鍵や外部サービスの鍵は、シークレット管理サービスに置く
4: 原則取得しない 要配慮個人情報、マイナンバー、個人識別符号に当たる顔特徴データなどの生体データ、子どものデータ 取得するなら、法律上の要件(要配慮個人情報なら本人の同意、マイナンバーなら法定の事務に限る)を満たしたうえで、目的の限定・アクセス制御・監査ログ
3: 高 本人確認書類の画像、銀行口座番号、精密な位置情報、氏名+生年月日+住所のセット 暗号化、閲覧権限の最小化、保存期間の設定
2: 中 氏名、住所、電話番号、メールアドレス 単体なら中程度。組み合わさると危険度が上がる
1: 低 Cookie ID、閲覧履歴(個人関連情報)、仮名化データ 第三者に渡すと、渡した先で個人データになり得る
0: 最小 再識別のリスクを確認した統計データ、法律の加工基準を満たす匿名加工情報 —

以下、レベルごとに理由と実装の要点を見ていきます。

レベル 5: 保持しない前提

漏れたら直接お金が抜かれる、またはなりすましができるデータです。

カード情報。 EC 加盟店は、割賦販売法によってカード番号の漏えいを防ぐ措置を義務付けられています。その措置の具体的な中身を示す実務の指針が、クレジット取引セキュリティ対策協議会の「クレジットカード・セキュリティガイドライン」です(ガイドライン自体は法令ではありませんが、経済産業省の監督の基本方針で実務の指針と位置付けられており、これに沿った措置(またはそれと同等以上の措置)をとっていれば、法律の求める「必要かつ適切な措置」をとっているものとみなされます)。以前は「カード情報を持たない(非保持化)か、持つなら PCI DSS に準拠する」が指針の対策でした。

しかし現行の 6.1 版(2026 年 3 月)は、非保持化しても、それだけでは足りないとしています。最近の主な漏えいは、非保持化した EC 加盟店で、Web サイトの脆弱性を突かれてカード情報が盗まれるものだからです。自社のサイトが改ざんされ、決済画面へ進む前に偽の入力画面を出されれば、カード番号を自社のサーバーに保存していなくても、入力された時点で盗まれます。そのため EC 加盟店には、カード情報を持つかどうかにかかわらず、自社のシステムと Web サイトの脆弱性対策(ウイルス対策、管理者権限の管理など)と、その定期的な点検が求められています。

それでも、カード情報を持たないことが出発点であることは変わりません。中小規模のサービスで PCI DSS に準拠するのは負担が大きいので、まず非保持化を選び、そのうえで脆弱性対策をします。

PCI DSS は、カード番号そのものの保存は保護を条件に認めていますが、セキュリティコード(CVV など)や暗証番号は、承認後の保存を禁止しています。暗号化していても不可です(要件 3.3.1)。「暗号化すれば持ってよい」が通用しない、数少ないデータです。

パスワード。 平文で持つのは論外として、暗号化(元に戻せる形)で持つのも避けます。持つのはハッシュだけです。OWASP の Password Storage Cheat Sheet は、Argon2id を第一の選択肢に、使えなければ scrypt を挙げています(FIPS 準拠が必要なら PBKDF2、bcrypt は既存システム向け)。

API キー・秘密鍵・セッショントークン。 ここは「持たない」の意味が 2 つに分かれます。

レベル 4: 原則取得しない

漏えい報告義務の 1 に当たるか、法律で取得・利用そのものが制限されているデータです。

設計で最初に問うべきは「本当にこれを取る必要があるか」です。例えば年齢確認なら、生年月日を持たずに「18 歳以上かどうか」の真偽値だけを持てば済む場合があります。

レベル 3: 高

単体で、または組み合わせることで、なりすましや詐欺に使えるデータです。

持つなら、暗号化、閲覧できる人の最小化、保存期間の設定の 3 点が要ります。保存期間を決めて自動で消す仕組みは、最も効く対策の一つです。消したデータは漏れません。

レベル 2: 中

氏名、住所、電話番号、メールアドレス。多くのサービスが持つデータです。

単体なら被害は迷惑メールや迷惑電話にとどまることが多いのですが、漏れた本人の数が 1,000 人を超えれば、それだけで報告義務の対象になります。数えるのは会員の総数ではなく、漏れた個人データの本人の数です。会員が多いサービスほど、このレベルのデータでも一度に 1,000 人分を超えて漏れれば報告案件になる、ということです。

組み合わせで危険度が上がる点にも注意が要ります。氏名とメールアドレスに、購入履歴やパスワードの使い回しが加わると、標的型の詐欺に使われます。

レベル 1: 低

Cookie ID、閲覧履歴、仮名化データ。それ自体では誰のものか分からないデータです。

ただし、渡した先で個人データになり得る点に注意します。現行法でも、提供先で個人データとして取得されることが想定される場合、提供元は、提供先が本人の同意を得ていることを確認しなければなりません(法第 31 条、個人関連情報の第三者提供の規律)。

また、法律上の「仮名加工情報」(他の情報と照合しない限り個人を識別できないように加工したもの)は、個人情報とは別に定義された区分で、専用の規律(法第 41 条・第 42 条)があります。そのうえで、元の個人情報や削除した情報を持っている自社の中では、照合すれば個人を識別できるので、個人情報にも当たります(委員会のガイドライン(仮名加工情報・匿名加工情報編))。個人データである仮名加工情報は、委託などの例外を除いて第三者に提供できません。「仮名にしたから低リスク」と考えて扱いを緩めるのは危険です。広告やアクセス解析のタグを入れるときは、このレベルのデータを外に出していることを意識します。

レベル 0: 最小

特定の個人を識別できない形に加工したデータです。ただし、集計しただけで安全になるわけではありません。該当者が数人しかいない区分や、珍しい属性の組み合わせが残っていると、統計データからでも個人が特定できます。区分ごとの人数が少なすぎないかなど、再識別のリスクを確認したものだけをこのレベルとして扱います。法律上の匿名加工情報は、委員会規則の加工基準を満たして作ったものを指します。

分析や AI の学習に使うなら、生データではなくこのレベルまで加工したものを渡すのが理想です。ただし匿名加工情報を作ったり提供したりするときにも、加工の基準や公表など、法律上の手続きがあります。

3. 令和 8 年改正で設計に効くところ

2026 年 7 月 10 日に「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律」が成立し、7 月 17 日に公布されました。施行は原則として公布の日から 2 年以内(2028 年 7 月まで)で、具体的な日は政令で決まります。対象の範囲や手続きの細部も、多くはこれから委員会規則などで定められます。以下は個人情報保護委員会の改正法の概要に基づいています。

設計に直接効くのは次の点です。

改正点 中身 設計への影響
課徴金制度 不適正な利用、不正な取得、同意のない第三者提供、統計作成等の特例違反のうち、本人の権利利益が侵害され、本人の数が 1,000 人規模のものなどに、違反で得た利益に相当する額の課徴金 データを外に出す経路(提供・連携)を洗い出しておく
16 歳未満の規律 同意の取得や通知は法定代理人(親など)を対象にすることを明文化。利用停止の請求の要件を緩和。未成年者の最善の利益を優先して考慮する責務 年齢を判定する仕組みと、保護者の同意を取る経路が要る
顔特徴データ等 取り扱う旨や利用目的などの周知を義務化、利用停止の請求の要件を緩和、オプトアウト制度による第三者提供を禁止。単なる顔写真ではなく、本人の識別に使う顔の特徴データが対象 顔認証などを入れるなら、消す仕組みと周知を最初から用意する
統計作成等の特例(AI 開発を含む) 統計情報等の作成にのみ使うことが担保されていれば、本人の同意なしに第三者提供できる(公開されている要配慮個人情報の取得も可能に)。担保として、一定事項の公表、提供元と提供先の書面での合意、目的外の利用・提供の禁止などが想定されている 「同意不要」は目的外利用をしない担保が前提。学習用データの管理を分ける
特定の個人に働きかけができる個人関連情報 個人情報ではないが、特定の個人に連絡などの働きかけができる情報について、不適正な利用と不正な取得を禁止。委員会の概要では、所在地、電話番号、メールアドレス、Cookie ID などの記述で、それを使って特定の個人に連絡できるものを含む情報が対象とされている レベル 1 のデータでも、連絡に使えるものは扱いを一段上げる
漏えい時の対応 社内 ID だけが漏れた場合など、本人の権利利益の保護に欠けるおそれが少ないときは本人への通知を緩和。違法な第三者提供も報告の対象に 漏れても意味を持たない識別子だけを外に出す設計が、事故対応の負担も減らす

16 歳未満と顔特徴データ等は、上の表でレベル 4 に置いた理由そのものです(子どものデータは、漏れたときの被害ではなく、手続きの重さで置いています)。施行前でも、これから作るシステムには「年齢でデータの扱いを分ける」「顔特徴データを消せる」設計を入れておくほうが、後から作り直すより安く済みます。

4. 設計の順番: 取らない > 持たない > 守る

各レベルのデータについて、次の順に検討します。

  1. 取らない。 その項目がないと、本当にサービスが成り立たないか。生年月日ではなく「成人かどうか」で足りないか。住所ではなく都道府県で足りないか
  2. 自社で持たない。 取る必要があっても、決済代行のトークン化、本人確認の外部委託、認証の外部サービス(Google ログインなど)で、自社のデータベースに置かずに済まないか
  3. 持つなら守る。 暗号化、閲覧権限の最小化、保存期間を決めて自動で消す、アクセスの記録を残す

レベルが高いデータほど、1 か 2 で済ませます。レベル 5 は 1 か 2 しか選ばない、レベル 4 は原則 1、どうしても必要なら 3 を全部やる、というのが目安です。

「持つなら守る」は最後の手段です。守りは必ずどこかで破られる前提で考えます。そのときに漏れる量を減らせるのは、持っている量を減らすことだけです。

5. 社内の分類表にするには

この表をそのまま使うのではなく、自社のサービスで扱う項目を一つずつ並べ、次の 4 列を埋めると、設計レビューで使える分類表になります。

項目 取得するか 保存方法 保存期間 根拠
カード番号 取得しない(決済代行) トークンと下 4 桁のみ 退会まで 割賦販売法、クレジットカード・セキュリティガイドライン、PCI DSS
パスワード 取得する Argon2id のハッシュ 退会まで OWASP
本人確認書類の画像 外部委託 持たない(確認結果のみ) — 個人情報保護法
メールアドレス 取得する 暗号化 退会後 30 日 個人情報保護法

社内規程にまで落とし込むなら、プライバシーマークの基準になっている JIS Q 15001 や、国際規格の ISO/IEC 27701 の枠組みが使えます。

まとめ

本稿の表はあくまで設計判断のたたき台です。法的な判断が必要な場面では、最新のガイドラインを確認し、専門家に相談してください。

参考資料

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