Singularity Society 第4期 BootCamp キックオフ(前編)— LLM を主役に据えた「自分専用アプリ」MulmoClaude

Singularity Society 第4期 BootCamp キックオフ(前編)— LLM を主役に据えた「自分専用アプリ」MulmoClaude

2026 年 6 月、Singularity Society BootCamp 第 4 期がキックオフを迎えました。今回は日鉄興和不動産様にスポンサーとして会場をご提供いただき、Tech・イノベーションの街である品川の品川インターシティで対面イベントを開催。これまでで最も多くの方にお集まりいただきました。

BootCamp は、半年〜1 年という長期タームでプロダクト開発に取り組む「長期ハッカソン」です。当日はまず中島聡が、自身が実験的に開発しているアプリ「MulmoClaude」のデモで幕を開けました。本稿ではキックオフの 2 つのセッションを前後編でお届けします。前編は、その中島によるデモの様子です。

※ 以下は、中島聡本人の語り口のまま、当日のセッション内容を AI を使って読み物に再構成したものです。話し言葉は整えていますが、発言の趣旨は変えていません。

MulmoClaude のソースコードは GitHub で公開されています。

本セッションのアーカイブ動画は YouTube で公開しています。


中島です。ご参加ありがとうございます。

この BootCamp は無料で提供していますが、皆さんにお願いしたいのは「一生懸命参加する」という一点だけです。自分でプロジェクトを立ち上げたい方もいれば、ここで出会った人のプロジェクトに加わる方もいると思います。途中で忙しくなることもあるかもしれませんが、参加の仕方はさまざまです。プロジェクトのメンバーとして動くだけでなく、ヘビーユーザーとしてサポートするという関わり方もあります。気がついたらオンラインから消えてしまう方も少なからずいるのですが、それはお互いにとって得るものがなくなってしまうので、ぜひ皆さんで参加し続けてほしいと思っています。

私自身は、とにかく手を動かさないとものを考えられない、いわばサメのようなエンジニアです。昨年まで MulmoCast を頑張っており、今も使っていますが、最近は MulmoClaude という少し変わったアプリを作っています。今日はそのデモをお見せします。

狙いは二つあります。一つは、こういう作り方をしているんだよ、という参考にしていただきたいということ。私は最初からがっちり設計を固めるよりも、作りながら考えたり、使ってくれた人のフィードバックを受けながら作るタイプです。もう一つは、実際に参加してくださった皆さんにこのアプリを使っていただき、フィードバックをいただきたいということです。

GUI チャット

それではデモに移ります。まず基本となるのが、このチャット画面です。「GUI チャット」と呼んでいる、グラフィック機能付きのチャットです。一番わかりやすい例として、「絵を描いて」と頼むと、後ろで Google の Nano Banana がつながっていて、絵を描いてくれてチャット画面に表示されます。

GUI チャットに「月面の工場で動くテスラの Optimus を描いて」と頼むと、生成された画像が表示される

なぜ MulmoClaude を作るのか

そもそも MulmoClaude を作り始めた最大の理由は、人間の言葉を理解する LLM がある時代に、コンピューターと人間のインターフェースはどうあるべきか。そこまで遡って、新しい体験を作ってみたかったからです。

Microsoft の Copilot は、Excel という既存アプリがあって、その横に Copilot が付いている形です。これは主従が逆だと感じています。それよりも LLM が前面にあって、あらゆることを担う中にスプレッドシート機能や画像生成機能がある——そういう主従が逆転した形がいいだろう、というのが一つの思いです。

また、LLM がコードを書ける時代になり、Vibe Coding が可能になりました。では LLM にコードを書かせて何をするか。多くの人が思い描くのは、Microsoft・SAP・Salesforce のような既存アプリを一人で Vibe Coding で作って戦う、というイメージです。実際、そうやって立ち上がったスタートアップもたくさんあります。

そこはそこであるとして、私は少し違うと考えています。コードを生成するコストがこれだけ下がり、速くもなったのだから、必要に応じてオンデマンドで作れるはずです。たった一人のユーザーの特殊なニーズのためのアプリがあってもいい。では、それをどういう環境でユーザーに届けるか——ずっとそれを考えてきました。

今はプログラムを書けない人でも Vibe Coding でゲームくらいは作れますが、そうして作った HTML ページに後からどうアクセスするのか、セキュリティを無視して作ったアプリが長年使えるのか、という問題があります。そういった問題を解決しようと考えながら作っているのが、このアプリです。

きっかけは「LLM + Wiki」

最初のきっかけになったのは、OpenClaw と、Andrej Karpathy が提唱していた「LLM + Wiki」というコンセプトです。その機能もこのアプリに組み込んでいます。

Wiki には最近よく書き込んでいます。「この AI があったらどんな新しいビジネスが作れるか」ということを私はずっと考えているのですが、考えるだけだとアイデアが消えてしまうので、LLM に説明してドキュメント化してもらうようにしています。

MulmoClaude の Wiki ページ。AI を活用したビジネスアイデアの考察が並ぶ

そうしたアイデアの一つが、あるとき外部にプレゼンする機会につながりました。そのときも、この Wiki のデータをもとにプロポーザルにまとめて提出しています。

プラグインから「コレクション」へ

Wiki はさまざまなアイデアをつなぐのに向いていて、どちらかというと非構造的なデータの置き場として機能しています。ただ、これを私の仕事や生活の中心で使う「本当の AI アシスタント」にするには、Wiki だけでは足りません。

当初は Wiki の中にプラグインの仕組みを設けて、TODO リストやカレンダー、作業ログなどをプラグインとして作っていました。しかし、一緒に開発しているメンバーから「このまま、どうやってプラグインを増やし続けるんですか」と指摘されました。プラグインを追加するとシステムプロンプトが膨らんだり、アクセス権限の問題が出たりと、さまざまな課題があります。しかもプラグインは誰かがコードを書かなければならず、たとえ AI に書いてもらえるとしても、一般のユーザーがそのコードをプラグインとしてインストールするのは現実的ではありません。

そこで作り始めたのが「コレクション」という仕組みです。コレクションとは、わかりやすく言えばデータベースです。世の中にあるアプリの多くは、スキーマ付きデータベースの上にユーザーインターフェースが載っていて、少しのビジネスロジックが加わっているだけではないでしょうか。ならば、「コレクション」と呼ぶスキーマ付きテーブルを、ユーザーとの対話の中で LLM が作り、そのスキーマに基づいた汎用 UI でも、かなりのことができるのではないか——そう考えて作り始めたのがこれです。

コレクションの一覧ページ。対話しながら作ってきたコレクションがカードで並ぶ

コレクションで作ったもの

TODO リスト

たとえば TODO リストには、いま「テーブル」と「カンバン」の 2 種類のビューがあります。TODO にはカンバンが便利で、たとえば「テスト」というタスクが完了したらチェックすると、隣のカラムへ移ってくれる、といった動きができます。

それぞれのタスクにはいくつかのプロパティがあり、プライオリティを「Urgent」に設定すると赤いマークが付き、グローバルな通知の仕組みにも連動して表示されます。汎用テーブルにスキーマが付いていて、そのスキーマの中に「通知をどう記述すればよいか」というドメイン固有言語(DSL)が定義されており、その DSL を LLM に書かせています。だから「TODO リストを作って」と頼むと作ってくれます。カレンダーも同じで、今回の出張スケジュールを全部入れたカレンダーも作ってもらいましたが、これも最初から組み込まれているわけではなく、「カレンダーアプリを作って」とリクエストすると LLM が作ってくれます。

Todos コレクションのカンバンビュー

レストランガイド

レストランガイドも作れます。行ったレストランや行きたいレストランを登録するコレクションを作ってもらい、「このレストランを登録して」と言うと登録してくれます。LLM はレストラン名だけから場所・電話番号・ウェブサイトを自動で調べてくれるので、とても重宝しています。

映画・テレビ

映画・テレビの記録もできます。Netflix なのか Amazon なのか、出演者、自分なりの評価など、自分だけのムービーガイドになっています。

映画・ドラマコレクションのテーブルビュー

株価ポートフォリオ

株価も管理しています。今回はデモなのでリアルなデータは避けましたが、保有株の情報を登録しておき、「データをアップデートして」と頼むと現在の株価を取得してくれます。朝取得したので、ほぼリアルタイムの値です。テスラも、上場したばかりの SpaceX も入っています。そもそも、この株価アプリも最初から入っているわけではありません。「株価アプリを作って」と言うと、LLM が作ってくれます。

現在の株価を取得した Stock Quotes コレクションのテーブルビュー

ポートフォリオのテーブルには結合機能も使っていて、現在の株価テーブルと保有株数テーブルを結合させ、「100 株持っているから 100 倍で計算して」という処理も自動でやってくれます。これもあらかじめ組み込まれた機能ではなく、LLM にリクエストすると作ってくれます。

株価ポートフォリオのテーブルビュー

単語帳

単語帳も作っています。ボキャブラリーを増やそうと思って、「私にとって難しい英単語を勉強するアプリを作って」と頼んだら、作ってくれました。最初にテストで自分の英語レベルを測った上で、その人に合った単語を出してくれます。

単語帳コレクションのカンバンビュー(習熟度別)

自分のためのカスタムビュー

一昨日、あるユーザーから「テーブルビューやカンバンビューはいいけれど、もっと自分のためのビューが欲しい。たとえば年表を見たい。カスタムビューを作れませんか」というリクエストがありました。ふと思いついて試してみたら、うまく動き始めました。

フラッシュカードもその一例です。これも元々のビルトインの UI ではなく、LLM に頼んだものです。単語帳アプリを作ったあとに「勉強するときはフラッシュカードの方がいいから作って」と言うと、そのビューをあとから追加してくれます。意味を確認したり、次の単語に進んだり、「覚えた」と言うと次に移ったりできます。

単語帳のフラッシュカードビュー

株式ポートフォリオについても、テーブルを作ってもらったあとに「資産配分をパイチャートで見たい」と言うと、そのビューをダイナミックに生成してくれます。エンドユーザーから見えないところで Vibe Coding が起きているのですが、ユーザーはほぼそれを意識しません。生成された HTML ページはアプリ内のメニューに自動で追加されるので、ユーザーが探しに行く必要もありません。

ポートフォリオの資産配分をドーナツチャートで表示したビュー

映画のサムネイル付きビューも今朝作りました。もともと、見た映画やテレビを記録するテーブルにデータをポチポチ入力していたのですが、途中で「やっぱり画像付きのビューが欲しい」と言ったら、画像も自動で引っ張ってきてビューを作ってくれました。5 つ星評価もいつの間にかここで変更できるようになっていて、気がついたら自分だけの映画サイトアプリが Vibe Coding で出来上がっていました。これは本当にプログラミングをしていません。言葉でお願いしただけです。

映画コレクションのギャラリービュー

レストランのマップは、今日この会場に来てから作ったものです。もともと行ったレストランや行きたいレストランのリストがあり、行ったお店にはチェックと評価が入っています。その状態で「マップを作って」と無理を言ったら作ってくれて、Google マップでもよかったのかもしれませんが、「地下鉄路線図風にして」と頼んだら、その通りに作ってくれました。これもエンジニアの視点から言えば Vibe Coding ですが、エンドユーザーがリクエストすると、その特定の個人のニーズに合わせたものが作れます。私は東京以外のマップは必要なかったので、東京の地下鉄路線図の上に行きたい・気に入ったレストランをプロットして、と頼んだら、そのビューが出来上がりました。

レストランを東京の地下鉄路線図風マップで表示したビュー

コレクションは、ユーザーが追加するデータだけではなく、RSS リーダーも組み込んでいます。RSS の URL を渡すと同じようにコレクションを自動生成してくれて、1 日 1 回データを取りに行って更新してくれます。RSS は仕様が緩やかで、タイトルなど基本フィールドは決まっているものの、パブリッシャーが独自フィールドを追加できます。

ニューヨーク・タイムズの RSS フィードをテーブルで取り込んだ画面

たとえばニューヨーク・タイムズは画像フィールドを追加していて、それを表示する形式で頼んだら、サクッと作ってくれました。ニューヨーク・タイムズの RSS フィードだからこそ画像が含まれていて、「ひと目見てから記事を読みたい」という私のニーズと、そのフィード特有の仕様を組み合わせたビューが、ダイナミックに生成されたわけです。

同じフィードを画像付きのギャラリービューにした画面

これはポッドキャストです。私が大好きな Lex Fridman のポッドキャストを管理しています。テーブルだと使いにくいので、ギャラリー表示にして、ここで実際に再生できるようにしています。どのくらい聴いたかの記録も残るので、途中から再開することもできます。

Lex Fridman のポッドキャストをギャラリーで並べ、その場で再生できる画面

エンドユーザーは Vibe Coding を意識しない

このように、エンドユーザーが Vibe Coding を意識することなく、プロンプトだけでさまざまな機能を追加できるのが MulmoClaude の特徴です。

現在ベータユーザーを募集しています。「こういうことをやりたい」「試してみてうまくいかなかった」といったフィードバックをいただくこと自体が、ある意味でこのプログラムへの参加の一形態です。ぜひよろしくお願いします。


中島によるデモは、Vibe Coding が「一人で巨大アプリを作って戦う」だけのものではなく、「たった一人のユーザーのためのアプリをオンデマンドで生み出す」道具にもなり得ることを示すものでした。

後編では、有本による「BootCamp の歩き方」をお届けします。半年〜1 年という長期ハッカソンをどう走り抜くか、その考え方とマインドセットについてのセッションです。

👉 後編「BootCamp の歩き方」を読む

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