Invent or Die 11 - 夏野剛×松本徹三

1. 地獄を知っている二人!?

司会: それでは、大変お待たせいたしました。早速本日の主役のお二方をお招きしたいと思います。一般社団法人シンギュラリティ・ソサエティ共同発起人であり、 週刊『夏野総研』 発行者の夏野剛さん。そして、実業家であり9月に刊行されました、話題の近未来シミュレーション小説『2022年 地軸大変動』の著者であります、松本徹三さんです。皆さま拍手でお迎えください。夏野さん、松本さん、本日はどうぞよろしくお願いいたします。

夏野氏: よろしくお願いします。

松本氏: ありがとうございます。

二人の出会いはヘッドハンティング!?

司会: お二方、前回お会いしたのはいつでしょうか?

夏野氏: 会ってないけど、いつもTwitterとかで見てるから、いつでも会ってる感じですね。

松本氏: 初めて会ったのはいつだったかな。

夏野氏: だいぶ前ですよ。まだ松本さんがクアルコムにいる頃だから。

松本氏: 僕は、後にクアルコムのCEOになるPaul Jacobsと仲が良かったけど、そのPaul Jacobsから「夏野さんをクアルコムに採ってくれ」って頼まれた。

夏野氏: でも、本人から条件が提示されなかったんです。

松本氏: それは理由があったんですよ。彼が夏野さんを欲しがったのは、MediaFLOっていうプロジェクトがあったからです。

夏野氏: その条件は提示されました。でも、「それは絶対上手くいかない」って返した。

松本氏: MediaFLOは放送システムでしたからね。ネットになっていく時代に放送システムを今更やってもというか、夏野さんは興味はなかったんです。でも後々になってドコモはやったんですよ。NOTTVっていうのを。

夏野氏: あれはひどい話でしたよ。取り敢えずはじめて、結果的に大失敗になっちゃったっていうやつなんです。

松本氏: その頃は私はもうソフトバンクにいましたが、既にそれがわかっていたので興味を失っていました。ネットでロングテールが立ち上がる前は、多チャンネル放送っていうかいわばロングテールだったんですけど、ネットでロングテールが立ち上がったときには、もう古くなってたんです。夏野さんの方は3年ぐらい前からそれがわかっていたらしくて「駄目駄目」って言うから、僕はPaul Jacobsに「夏野さんは諦めてくれ」って言った。それが今から…何年前?

夏野氏: あれが2005年ぐらいですかね。

松本氏: いや、もっと前だったかも。

夏野氏: その後、僕がまだドコモにいるときに宮内さんが来て抽象的な話をするの。よくよく聞くと、スカウトしたいっていう話なんだけど。でも、抽象的なまんまなんですよ。ちゃんと具体的に、あのとき「2億あげるから来て」って言われてたら、行ってたと思うんだよね。だって、孫さんはそれを出すつもりだったじゃないですか。

松本氏: まあね。でも、あの頃はそんなに気前良くなかったんですよ?

夏野氏: ちょうどボーダフォンを買うときですよ。

松本氏:ボーダフォンを買うときだけど、その頃のソフトバンクの懐なんて際どいもんだったんですから。

夏野氏: そうなんだ。結局具体的な条件を提示しないまま、これって何だったんだろうと。

松本氏: 僕は宮内さんが話してるのは知らなかった。

夏野氏: それが1回目で、その後Sprintを買うときに、今度は宮川さんから電話がかかってきて、「どうしても孫さんが話をしたいから」と言うので、会いに行ったんです。結局そのときも車に乗るまで孫さんが下まで送ってきてくれたんだけど、別に何の話もなく。
ということで、ソフトバンクグループ入りは、本当に縁遠かったです。

松本氏: 知らなかった。

夏野氏: あのときは副社長で松本さんがいたよ。

松本氏: いたけど、副社長といっても本当の身内じゃないんです。昔から、会社っていうのはそういうものなのでは?所詮はお客さんなんです。

夏野氏: あのとき、孫さんは結構松本さんを頼りにしてましたよ。あのとき、松本さんはクアルコムをもう辞めてたんじゃなかったっけ?

松本氏: 僕はアメリカに行こうと思ってたんです。

夏野氏: そう、それを引き止めた。松本さんが総務省からも恐れられ、NTTグループからめっちゃめちゃ恐れられてる人で。別に何も悪いことはしてないんだけど、主張がまともだから総務省が流されるわけです。

松本氏: 総務省は恐れてましたね。

夏野氏: NTTが恐れてましたよ。 クアルコムの代弁者として、アメリカのCDMAの話とかKDDIの話は、実は全部松本さんがやってたから。本当に通信業界で松本徹三ありきみたいな。 なのにSF小説書いちゃうからすごいよね。

松本氏: 考えてみたら、ソフトバンク時代、僕はほとんど役に立ってないんですよ。

夏野氏: いや、立ってたよ。

松本氏: いや、立ってません。名前だけは Chief Strategy Officerでしたけど。Chiefがつかないと外国人に相手にされないから孫さんにお伺いを立てたら「ああ、いいですよ」って言ってくれたのでそうなりましたが、考えてみたらこれは変なんですよね。だってChief Strategy Officerは直訳したら最高戦略責任者ですよ。それなら、その役目は現実には100%孫さんなんですから。

夏野氏: 通信キャリアの組織って世界的に全然修羅場くぐってない人ばっかりなんです。そこにいきなり松本さんが、1人めちゃ修羅場くぐってきた人が。世界のGSMAとか。あれはすごかった。

松本氏: GSMAでは、確かに日本のために名を売りました。それまで日本はドコモさんから歌野さん。あ、こんなこと言ってもいいのかな。その前は、とにかく一言もしゃべらないということで有名だった。それまでは一言もしゃべらなかったけど、僕が彼に質問したので「あなたのおかげでドコモの人が初めて発言しました」って、みんなから感謝されたんです。

夏野氏: あのときはかき回してましたよ。

松本氏: おっしゃる通りかもしれませんね。ああいうところに出てくる各社のCSOというのはあまり役に立ちません。格好だけはいいんですけどね。「世の中はこうなる、ああなる」と言っても、実際に自分で手を汚してやってはいないことが多いのです。

夏野氏: それは標準化の世界では、標準化のプロフェッショナルっていうのがいて、実際には稼がないけど、政治的な駆け引きが得意な人っていうのがいるんです。

松本氏: 標準化はそうですけどね。だけど、一般のstrategy officerっていうのは格好だけつけている人が多いようです。

夏野氏: でも、アメリカの会社だったら結構新しいことをやるのは、みんなCSOですよ。

松本氏: 確かにそうです。ネットの世界とかはstrategyから入って開発するから。ただ、通信事業というのは言ってみれば元々土木建設業だから。

夏野氏: その通りだ。

松本氏: そうでしょう。土木建設業の中から新しいものをやっていく、現場とビジョンがちょうど相まみえる世界です。

夏野氏: だけども、僕は意外に面白かったんです。11年いましたけども。

松本氏: 面白かったでしょうね。僕は大星さんから聞いたんです。「iモードについてみんないろいろ言ってるけど、あれは夏野が1人でやったんですよ」と。でも、あのとき上にいい人がいたじゃないですか。

夏野氏: 榎さんね。

松本氏: 榎さん。あの人は良かったですね。

夏野氏: 良かった。榎さんが最高でした。榎さんが守ってくれなければ、僕はなかったです。

松本氏: 夏野さん1人じゃ駄目だった。

夏野氏: できない。絶対できない。

松本氏: これは、これからの人にとって重要なヒントですよ。 若くてガッツのある人も、1人だとなかなか何もできない。 今は世の中がだいぶ良くなって、当時と比べたら比較にならない程に新しいことはしやすくなりましたが。

夏野氏: そうですね。今の若い人にはチャンスがある。

「創造的にしたから死んじゃった」?!そこは地獄・・・

松本氏: 僕は夏野さんの一つ前の時代の人間なんですけど、実は今日お招きいただいたこのセッションの『Invent or Die』という名前には、非常に特別なご縁を感じるので、そのことを少しお話しさせてください。

実は僕は今から36~37年前に、アメリカでこの世の中にはベンチャーっていうのがあるんだということを初めて知りました。当時、私は商社マンでしたが、どこにでもガンガン投資していく現在の商社と違って、当時の商社は『コミッション・エージェント』つまり『口利き屋』が主だったんです。私はこの『コミッションをもらう口利き屋』というが嫌で嫌で、でもサラリーマンだからやらなきゃいかんじゃないですか。しかも、誰にとっても大市場のアメリカでは商社を頼りにしてくれるメーカーなんかあまりないですから、『口利き屋』稼業も難しい。そこに『この世の中にはベンチャーというものがある』ということを知ったので、これだと思ったんです。
しかし、当時日本ではベンチャーという言葉を知っている人はまだほとんどいませんでした。ですから、本社から見たら僕が何をやろうとしているのかさっぱり分からなかったでしょう。でも、まあやらせておこうかと思って放っておいたら、結果から言うとそれが全て大失敗でした。全部上手くいかない。これ以上失敗できないぐらい失敗しました。僕がその後も同じ会社で生きていけたのが不思議なくらいです。
そのときに、『ベンチャー投資』だけにしておけばよかったのに、僕は自分でも何か新しいものを作り出したくなって、自分で『ベンチャー事業』まではじめてしまいました。とても先進的だけど使いにくくて売りにくい変なものを作ってしまったのです。実は、”E-Mail”っていう言葉を世界で一番初めに使ったのは僕なんです。多機能電話機をポンッて触るとキーボードが出てきて。それでショートメッセージが交換できるんです。それを”E-Mail”って名付けたんですけど、肝心の商品が失敗したので、それが世の中に知られないうちに、本物の今のemailが出てきてしまいました。

その時に僕が作った会社の標語が”Be Creative or Die”だったんです。その言葉を額に入れて、それを社長室に掲げていました。元々ボストンでアメリカの独立運動を始めた人たちの合言葉が” Be Free or Die”だった。『自由でなければ死んでる方がまし』とか『自由の為なら死んでもいい』という意味です。だから、僕は 『創造的でなければ死んでるのと同じ』と『創造的でなくては生きていけない』 という意味の二つをかけて、自分ではいい言葉だと思って会社の標語にしたんです。
でも、やれたことは今から考えると恥ずかしいぐらい幼稚でお話になりませんでした。それで会社はガタガタです。一番仲良くしてたVPが毎朝来て、” Be Creative or Die”の” or”をXで消して、その上に” and”とマジックで書くんです。” Be Creative and Die”だったら、「創造的にしたから死んじゃった」という意味になります。もう会社は死にかけてたんだから、強烈な皮肉ですよね。僕は黙ってそれを消しておくと、彼は翌日また来て、「あれ?」と言って、また”and”にします。地獄ですよ。夏野さん、世の中に地獄ってありますよね。

夏野氏: 僕も1回会社つぶしてるんで地獄でした。

松本氏: そういうことがあったので 『Invent or Die』 は、僕の心にはグサッと刺さります。そんな背景がありました。


2. 迷った時は遠くを見ろ

司会: 最初の方に夏野さんがお話しされました。今回松本さんが『2022年 地軸大変動』という本を出され、これは夏野さんが、メルマガでもTwitterでも大絶賛されていらっしゃいました。この件についてお伺いしたいです。夏野さんご自身、SFはお好きでいらっしゃるのですか?

夏野氏: 僕はSFを読んでたことが新規ビジネスを立ち上げるきっかけになったぐらいです。
僕、SF作家で一番尊敬してて、一番大好きなのがイギリスのアーサー・C・クラーク、『2001年宇宙の旅』とかを書いた人です。物理学の法則とか、科学的根拠に基づいた上でシミュレーションするっていうのがハードSFの醍醐味ですが、日本のSF作家さんはあまりしないんです。もうちょっとファンタジー系とかにいっちゃうんです。だから、硬派なハードSFっていうのが日本ではあまりないですけど、まさか松本さんが書くとは思わなかったです。

司会: 松本さんは、以前『AIが神になる日』を出版されました。それもどちらかというと、ハードSFの様な形だったと思いますが。

松本氏: そうなんです。あのときも夏野さんに帯を書いていただいた。
僕は、自分でこれからAIを使った商品やサービスを作れるわけじゃない。歳ですからもう作れないんです。そうなると、もっと先の大きな絵だけでも見たいですから、あの本も50年~100年先のことを書いているわけです。AIは50~100年先にこうなると。

僕は、孫さんの近くで5年ぐらい一緒に仕事をしましたから、孫さんから教えられることも多かったです。あの人は時々変なことも言いますけど、おおむね良い事を言われます。その中で僕が好きだったのは、「迷ったときは遠くを見ろ」 という言葉でした。孫さんの流儀は、何でも先ず大きな絵を描く事です。目標を目いっぱい高くする。それから逆算して、じゃあ、それが最終目標なんだから、明日はこれをやってなきゃいかんよねと。
僕はこの発想が大好きでした。そうでないと考えが縮こまるからです。今できる、明日儲かるということばっかり考えてると、大きな仕事はできません。いつまでも細かいことばかりに目がいっちゃう。もちろん地に足は着いてなきゃいけないから、明日やることは大切です。だけど、明日やることは、当然明日できることでしかないんです。ほっといたって、明日できることしか明日はできないんですから。でも、そのときに、将来的な大きな絵を見た中での明日なのか、単なる明日なのかでは随分違います。この点で、僕は孫さんはやっぱり偉いなと思った。僕も同じ考えでした。あのAIの本は、そういうことで書きました。だって、明日何やるかっていうのは、その辺でいっぱいみんなもうやってるのですから。そんなこと、いまさら年寄りが書いたって意味ないじゃないですか。でも、あの続編を書こうと思うと、いっそのこと本物のSF小説にしちゃった方が分かりやすいし、もっと大きな絵が描けると思って書き始めた。それが今度の本です。

この本を書いた二つの動機

松本氏: 今度の本を書いた動機は実は二つあります。半分は、今言った様に 『AIが神になる日』の続編のような気持ちですが、もう半分は 「国際社会のあるべき姿の探究」 です。今の世の中、コロナと気候変動で大騒ぎですが、両方とも大したことはないんです。そんなこと言ったら、苦労してる方から怒られるかもしれないけども、今のコロナも気候変動も、よく考えてみればそんなに大したことではありません。気候変動で2度~5度気温が上がって海面が何センチか上がる。それだけで済むのなら、地球全体で長期的に考えるとそんなに大きなことではないけど、もしこれが10倍か100倍ぐらいの規模で来たらどう対応するのでしょうかと。でも、我々は、コロナやこの程度の気候変動でさえウロウロしていて、何もあまりシャキシャキできてないじゃないですか。こんなことでいいのかと。じゃあ、今の10倍の規模の災厄が来たらどうするのというのを書いてみたかった。

夏野氏: 地軸が動くというのは気象条件から何から、地球の超基礎原理が動くということなので全く違う。そこにSFの醍醐味があるんです。その中で、人がどういうふうに動くかに焦点を当てるのがSFのすごさで。SFってサイエンス・フィクションなんだけど、実は人の動きなんです。人がどう動き、人がどう考え、どんな人がどんなことをやるっていうのをシミュレーションすることなので。松本徹三はハードSFの大家ですよ。

松本氏: ありがとうございます。そういう大問題が起こったときに、世界は、そして、日本の首相はどう動くか。それを自分で考えるわけです。だって、そんなことは来年起こってもおかしくはない事だからです。もし宇宙人が来たらという確率は、0.01%かもしれないし0.0001%かもしれないけど、0%じゃないわけでしょ? そういうことがもし起こったときに、自分だったらどうするのかと。こう言うとおかしく聞こえるかもしれないけど、この本を書いている間中は毎晩それを考えていました。この本の筋書きは初めからあったわけじゃありません。前提だけ決めて、そのときに人間や国際社会がどう動くかっていうのは、書きながら考えたのです。そうすると、毎朝ガバッと目が覚めて、「あれ? 待てよ。そんなこと言ったって世の中には通らないぞ」とか「困ったなあ。そこはどう解決しようか?」とか思い悩むのです。自分がそういう世界に生きていて、実際にそういう事態に直面していると考えてみるわけです。だから、こんな年寄りでも、ボケてる暇なんてなかった。

夏野氏: これはNetflixかAmazonプライムで、ドラマとしてやってほしいと思います。

松本氏: そうなればうれしいです。
重要なところに日本人が出てきますけれども、僕は必ず『外国人の目から見た日本人』にしているんです。読者としては外国人を初めから意識していましたから。僕はトータルでアメリカに10年ぐらいいましたし、発想や考え方とかは日本人と外国人の半々ぐらいです。だから、何とか英語版を出したいし、映像化してくれたらうれしいですね。

SFは、自分ごととして読むのが醍醐味

司会: 先ほど、松本さんがコロナよりもっと大きな規模で考えるってお話しされたときに、夏野さんうなずいてる感じがありました。夏野さんは今回の『地軸大変動』を読んでいる際に自分事化したり、自分でそういうふうな立場になったりはお考えになったのですか?

夏野氏: SFっていうのはそういうことなんです。自分はその立場になったときにどう行動するんだろうということと、作家が書いてることの答え合わせみたいなことなんです。自分だったらこうするけど、作家さんはこうした。でも、もしかしたら自分が思ってたよりも、作家さんが思ってることの方が正しいかもしれない。こういうふうに、この状況が起こって自分だったらどうするって思いながら読むのが、SFの醍醐味なんです
特にアーサー・C・クラークの作品っていうのは、主人公の心理描写っていうのがものすごくされていて。そこには家族があり、ほんとに身近な愛情があり、でも、置かれてる環境はそんなもんじゃない。そのアーサー・C・クラークのタッチが、松本さんの作品にはモロありました。

松本氏: ありがとうございます。そういって頂けると一番うれしい。僕、アーサー・C・クラークが一番好きだったんです。

夏野氏: 最高です。

松本氏: 『幼年期の終わり』って面白かったな。

夏野氏: 『幼年期の終わり』も面白かったけど、心理描写を描くんであれば、やっぱり『宇宙のランデヴー』です。あの閉鎖空間に置かれて、異星人と会うっていう。それだけ聞くとあり得ないことなんだけど、あまりに心理描写が的確で、そういう状況に置かれたときに人間ってこういうふうに行動するんだみたいなことが描かれてるのは、今回の『地軸大変動』と全く共通している。

松本氏: ありがとうございます。

夏野氏: 素晴らしいと思います。日本のそういう意味でのSFとして、ふざけた方向とか違う方向に行かずに、まともに書いたのは小松左京さんだったと思うんです。今でも『日本沈没』ってすごいシミュレーション小説なんだけど、50年も前の作品なんで科学技術が違いすぎちゃってて。だから、今の世の中に通じようと思うと、今やってるTBSみたいなドラマみたいになっちゃって。まさか、こんな身近な松本さんがSF大作家の最右翼に躍り出るとは思わなかったです。

松本氏: 夏野さんにそうおっしゃっていただいて、こんなうれしいことないです。

夏野氏: ほんとにそうです。

松本氏: 日本のはファンタジーが多いですね。

夏野氏: そう。あと、ヒーローを作りたがるんです。日本の作品って。でもヒーローってそんないないんで。


3. 海外から見た日本

松本氏: 僕のこの本では、登場人物はごく当たり前の普通の人間です。それに、話は2022年に全部完結しちゃうんだから、未来小説じゃないんです。ただ、日本の首相だけは、ものすごくできる人が突如出てくることになっているのです。そうでないと小説にならないから。日本の首相が国連で演説するのですけど、あの演説の内容は、自分が実際に演説の原稿を書かされたつもりで随分考えました。

権限がない人の発言は…

夏野氏: あの話に出てくる日本って、世界から見ると実はすごく尊敬されていて注目されてる国なのに、発信する人がいないんですよね。松本さんがGSMAとかやられたように、僕もいろんな国際会議とか出て日本が発言するっていうと、みんな滅茶苦茶聞いてくれるんです。

松本氏: 聞いてくれる。ほんと。

夏野氏: なんだけど、発言する人がほとんどいないんです。

松本氏: ほとんどいない。その通りですね。

夏野氏: あの小説の中で出てくるあの演説とかも、日本が演説するから説得力があるみたいなところがあるって、ちゃんと示してると思って。

松本氏: そうなんですよ。それなのに、みんな、まずは「えっ?」と思うわけです。「日本人の話だと、またどうせつまらない話だろう」という思い込みが一般的にあるからです。そうですよね。夏野さん。

夏野氏: ある。

松本氏: 日本人がまたブスブスと毒にも薬にもならんこと言うのだろうと思っていたら、アッと驚くようなことになるので、みんなびっくりするっていう筋書きを考えたのです。日本人にも実際にできる人はたくさんいますけど、数が少なくて埋もれてるんです

夏野氏: あと、地位がない。それが社長とか、地位がある人が言うからパワーがあるんです。海外では。だけど、そこでエンジニアがいくらいいこと言っても、ふーんで終わっちゃうわけです。だから、CSOはいいんです。

松本氏: 海外はCEOとかCSOは一番分かってて、何でも自分で話せ、自分で決められる人なんです。日本はそれが分離してる。

夏野氏: そうなんです。

松本氏: 多くの社長は「俺何言ったらいいの?」と部下に聞く。

夏野氏: そう。原稿。

松本氏: 実際に原稿を書いている人は権限がないんです。これも何とかしないと、この国は良くならない。

わからない事は聞いて決断

夏野氏: ほんとにそう思います。しかも、それは知識の問題じゃない。最近僕も、全く畑違いの出版社の社長になっちゃったので、分かんないこともあるんです。あるんだけど、だから決断できないってことにはならないんです。分からなければ、分からないところはいくらでも聞けば教えてくれる人がいますので。でも、分からないから決断しない。あるいは分かってても決断しないから話が進まない。だから、僕が社長になってから一番変わったことは、会議の時間が全部半分に。まず、資料は読まないでっていうのと、それから必ずその会議で結論を出す。分かってないところは、ちゃんと聞けば分かるので。分からないことってないんです。世の中に。30年やってなきゃ分かんないことなんてないですよね。松本さん。

松本氏: 何もない。絶対ない。

司会: 松本さんは、今の夏野さんのお話聞かれて、結構なるほどって納得される?

松本氏: 夏野さんの言うことは、大体いつも納得してるんです。


4. AIの未来、人類を救うのは!?

司会: ここで視聴者からご質問いただいてますので、読ませていただきます。今回のこの『2022年 地軸大変動』の本について。SFといえば、何十年も先の話のイメージでしたが、今回タイトルに2022年とついていて、設定が2022年で驚きました。時代設定の理由を教えていただきたいです。

松本氏: この本では「人類の将来がひょっとしたらこういうものになるんじゃないか」ということも書いていますが、それが実現できているのは異星人の世界なんです。地球人に関係のないところで。だって、地球人は永久にそこまで行けないかもしれないじゃないですか。それまでに滅びちゃって。そういう宇宙人がたまたま地球に来るのは、明日かもしれないし、100年先かもしれない。1000年先でもいい。地球の状態には関係ないんですから。それなら早い方が面白いじゃないですか。だって、来年そういうことが起こる確率と100年後に起こる確率とは似たようなものです。両方とも0.0001%ぐらいだったら似たようなもので、その違いは誤差の範囲じゃないですか。そしたら2022年の方が2050年より面白いですよね。2022年なら、受けて立つ地球人は今のままなんです。今のままでなければ勉強になりませんよ。50年先の人間がどうかとか考えたって意味ないです。
この宇宙人は圧倒的な力を持ってるけど、人類だってそこへはいけるかもしれません。しかし、そこに行こうと思えば、アインシュタインみたいな天才が何百年も努力を重ねる必要がある。そうなると、その間に、いい加減な政治家なんかが間違いを犯して、人類は滅亡してしまう可能性が高い。ですから、人類が滅亡する前に科学技術を飛躍的に発展させるには、AIが自律的にすごいスピードでどんどん自分を進化させていく事に期待するしかないと、僕は考えています

夏野氏: 2022年といえば来年ですよ。

司会: そうですね。それもインパクトが。

松本氏: 異星人は実はもう地球に来ているが、各国の首脳にメールを送るのは来年の2月という想定なんですが、その時期も迫ってきましたね。

夏野氏: かなり近い。でも、別に今『2001年宇宙の旅』っていう作品を読んだり、あるいは映画を見たりして、別に2001年って20年も前じゃんって思わないんです。だから、別に。

松本氏: 後になって見れば、それは一応古典になるからいいんですけども。

夏野氏: あとはメタファーなんですよね。『2022年』って名付けてるのは、今起こる可能性があることかもしれないっていうふうにメッセージしていて、これが2077年だったら知らんわいっていう話になるわけですよ。

松本氏: その通りです。

人類を救うのは圧倒的な技術力?

司会: 私が興味を持っていることで申し訳ないのですが。本の中では、ショルという異星人が他の星から来る設定で、全く人類とは違う設定になっています。これを考えるにあたって何かイメージしたこと、参考にしたものがあったのですか?

松本氏: 僕は「今の人類がこのままどんどん行ったらどうなるのか」とまず考えました。9割方は滅びてると思ってます。残念ながら。だって、今の人類は金正恩さん1人コントロールできないんですよ。そもそも、人間っていうのは訳の分からない存在なんです。普通の人でも何やるか分からないし、とんでもない人が権力を持つかもしれないわけです。歴史がそれを示しています。昔はどんなに変な人が権力を持ったって、せいぜい1,000人を刀で切り殺したとか、そのくらいしかできなかったわけですが、今は核がある。そして、もっと怖いのが人工のウイルスです。初めは癌を撲滅するためだったのに、手が滑って変なウイルスを作っちゃって、それが間違って流出してしまったら、あっという間に人類は滅亡します。そういう可能性を排除しながらショルのようになれるとしたら、僕は基本的に 『生物としての身勝手な本能や不安定性を持たないAI』 に頼るしかないと思ってます。人間じゃ無理だと。そして、現実にそれを達成できたのがこの異星人です。彼らが達成したのは圧倒的な科学技術力ですから、何万光年の先からでも来れるし、地球の地軸もキュッと変えちゃう。

司会: バリア張ったりとか。

夏野氏: 圧倒的な技術力ですよね。比較にならない。繰り返しますが、人間が普通にトロトロやってたら、そこに行くまでに何かの事故が起こって人類は滅びると僕は固く信じてます。そういう意味では、AIだけが人類を救う可能性があると信じて疑わないです。だから、これからAIをやる人は頑張ってよと。

未来を正面から考える

司会: 夏野さんは、これに関してどうお考えですか? AIが人類を救うとか。

夏野氏: すごい恐ろしい、怖いけども真実を言っているのは何かっていうと、科学技術が発展してそうそうのことでは人間は別に死ななくなったわけです。でも、この地球っていう環境の中で生物としての人類っていうのは、他に色々な種があるうちの一つ。ウイルスもその一つだし、それから、別に猿とか他の人もいる中で、種としてどう生き残ってるかっていう生存競争はせざるを得ないんです。でも、そこにヒューマニティとか、かわいそうだから弱者も救わなきゃいけないみたいな発想があって。それ自体は別に全然いいんです。いいんだけど、ちょっとバランスが崩れたらそんなこと言ってられない現実があることを、僕らはどこか心の中に入れておかないといけなくて。

今回のコロナでも、日本ではそれほどでもないかもしれないけど、欧米諸国だとホームレスも多く犠牲になっているわけです。治療も受けられずに。こういうことが現実にあるってことを、どこかで僕らは知った上で、でも、平時はちゃんと弱者も助け合いながら、しかも、公助をちゃんとしながらやっていくんだけど。でも、そんなこと言えない瞬間もどっかにあるっていうことも認知しておく必要性があると思います。
そういうことを真っ向から言ってしまうと、弱肉強食の、強者の何とかって言うんだけど。でも、それが生物種としての我々。そういうところはどうしても生物として持ってる、どうしようもない事実であり、今回のコロナ禍でもそういうことが出てきている。そこでどうバランスを取っていくかっていうことをシミュレーションする。今の状況では全然考えられない状態が起こったときにどうすんのっていう。このSFの役割っていうのは僕は大きいって思ってます。

司会: 松本さん、今のはいかがですか?

松本氏: 同感ですね。僕も本当にそう思います。もっと考えてほしいんです。きれいごとではなくて。今はみんな、きれいごとで満足しちゃってますけど、本当に追い詰められたらそんな状態じゃないですよ。


5.知識の幅を広げよう

司会: 私も今回、この本を読ませていただきました。松本さんは、この本を通していろいろと読んでる方には考えてほしいことがあると、あとがきで書かれていたと思います。小説としても面白いですし、いろいろ学ぶこともありますが、これを通して今の科学技術、縁、出会い、それから夏野さんがおっしゃった人間についても考えていただきたいというお話でした。この本の中での隠されたテーマ、考えてほしいことについて、お話ししてほしいです。

松本氏: ありがとうございます。隠されたテーマというか、僕はこれをきっかけに、もしこういうことができたらうれしいと思うことが一つあるんです。それは若い人達との交流です。若い人達の活躍の場って、今、色々なところに広がってるじゃないですか。元々、何か新しいものを生み出そうとすれば、どこかで尖っていないといけないのですが、その点では、日本の若い人達は割といいんじゃあないですか? オタクという言葉がありますけど、日本の若い人達は何かにこだわりだすと、ものすごく細かいとこまで入っていきますよ。これ、素晴らしいんだけど、そこで孤立しちゃうと世の中全体と繋がらないじゃないですか。何でもいいけど、好きなことをガーッとやってる人が、その一方でできるだけ幅広く、世の中の政治、経済、社会的なことから、哲学とか心理とかそういうことにも興味を持って、一応のことが分かってると、とてもいいと思います

アイデアの出る瞬間

物事のアイデアっていうのは、全然関係のないような二つのことが、ボーッとしてる間にパッと結び付くことで生まれるんだと思いますよ。我々が毎日何か思いつくのも、アインシュタインが相対性原理を思いついたのも一緒だと思うんです。頭の中には色々な問題意識がある一方で、幅広く雑多なメモリーがある。思いもよらない二つのものが、きちんとしたロジックでバチッと結び付くと、こうやったらこうなるんじゃないかというアイデアが生まれます。日本の若い技術屋さんも、技術屋さんでない人も、どんどんアイデアマンになってほしい。そのためには、人間の頭の中にある知識の幅が広ければ広いほどいいんです。自分の専門外で、とんでもないことも知ってると、言い換えると、より幅広く全体像が分かってると、そこから出てくる発想は、本当に社会を良くしたり、世界を良くしたりすることに繋がるんじゃないでしょうか。

理系とか文系とか関係ない

それなのに、日本では、すぐ理系とか文系とか分けるじゃないですか。アメリカなんか、社長はPhDが多いです。そんな人は、ちょっとビジネスが好きだと、ビジネススクールに行って、MBAか何かも取っちゃうんです。日本では、あいつは技術屋だからとか、私は文系だから分かりませんとか、初めからギブアップしてるでしょ。

具体的には、僕は今すぐやりたいことが一つあります。この本はあらゆる科学技術から哲学、心理、政治経済、ほぼ全部を網羅してるはずなので、それをベースに若い人達と議論することです。僕はあんまり取り柄がありませんけど、一つだけ取り柄があるのは歳を取ってることです。歳を取ってると、知識と経験の幅が当然広くなります。今、何か仕事をやらしたら、僕は若い人たちに全部負けますよ。もうまともに体が動かないから、何をやっても全部負けると思うけれども、一つだけ勝つのは圧倒的に長く生きていることです。僕は好奇心がとりわけ強くて、いつも色々なことを考えてきていますから、様々な分野にそれなりの知見があるんです。これを、僕は若い人にトランスファーしたいわけ。

夢は、誰かがアレンジしてくれたら、僕は何でも喜んでやりますよ。この本に書かれている事なら、何でも質問に答えます。どんな人でも、この本に書かれていることですぐにはよく分からないことが、結構あると思いますよ。その人の得意分野に入ると、「おお、こいつも分かっとるじゃないか」と、余裕を持って読み取ってもらえるでしょうが、すぐにはその文章に含まれている深い意味が分からないところも多いと思います。だけど、僕の頭の中では、それは実は全部繋がっているのです。「これ、どういう意味」って聞かれたら、僕は全ての質問に丁寧に答えます。「世の中こう見えてますけど、実はその裏ではこんな力学が働いてんです」 とか。そうすると、そんなこと全然関係ない世界だと思っていた技術屋さんでも「なるほど、そうか」となる。そうなったら、その人の幅がザッと広がるじゃないですか。Zoomとかでやれるのなら、喜んで全て無償でやりますよ。

夏野さん、僕はもうお金は要らないんです。おいしいものを食べ過ぎれば糖尿になるし、白い髭も生えてきて仙人みたいなものですから。そうなると、やっぱり世の中の為になりたい。しかし、世の中の為になることは、もうほとんど自分ではできないから、若い人達に何か自分の持っているものをトランスファーして、若い人達にやって貰いたいのです。これが今の私の最大の夢です


6. 日本の市場と会社の限界

司会: ありがとうございます。すごく素敵な夢を語っていただいて。私もそれを聞いて、さらにもう1回読み直そうって思います。科学技術の話とか国際情勢の話とか、とにかく小説としても楽しめるし、知識とか教養とかの本としても楽しめる本だったので。夏野さんも読まれたと思うので、なるほどと思い当たる節とか、逆に、夏野さんが若い人に与えたい夢とか、松本さんのお話を聞いて、何か今考えてらっしゃることってありますか?

映像化する事で想像力を助ける

夏野氏: この近未来SFのジャンルって、今NetflixとかAmazonプライムでもどんどんドラマ化されてるんです。僕の時代はそれを本で読んで、本で読むことによっていろいろ考えながらやっていたけど、今はすごいお金をかけた、すごいCGを使い、すごい映像を作って。でも、映像で入ってきても同じことを考えてくれるのかもしれないと、僕ちょっと思ってます。特に、このコロナ禍で僕も仕事をいっぱいやっていますけど、結構暇なんです。暇だと本も読むけど、こういうNetflixのドラマとか見る。すると、例えばこの『2022年 地軸大変動』がドラマ化、映像化されると、想像力がない人でも分かるようにドラマ化されると思うんです。それって、SFって一定の知的レベルがないと、想像がついていかないところがあって。だから、結構読者層が一般に広がらなかったりするんだけど、それが映像化されることによって、より広い層に、特に松本さんが言ってた若者に広がると、それはそれでいいなってすごく思っていて。
僕は、本で読むことのすごいところは、どんなすごい監督が、どんなにお金をかけて映像化するよりも、ちゃんと分かる人は頭の中で実現化するので、人間の想像力をフルに活用するんだけど、必ずしも全員が全員そうならないので。そういう意味で言うと、映像化されるっていうのは良くって。
今のこの動画、サブスクリプションサービスが全盛時代になって、どんどん新しい作品が映像化される時代になったときに、SFっぽいものが実際すごく多いんですよ。NetflixやAmazonプライムとか。だから、これいいなと思ってて。この『地軸大変動』は映像化してほしい

松本氏: ありがとうございます。ぜひお願いします。

夏野氏: 2時間の映画では語りつくせないので、これはドラマがいい。

司会: そうですね。それは賛成です。

松本氏: ドラマ化するならこんなのが良いだろうっていうのは、12話に分けて一応作ってあるんですよ。本であれこれと書いてあることはばっさり切り落として、アクション化出来そうな「さわり」だけ。

夏野氏: ただ、めっちゃ金かかりそう。

松本氏: 金がかかる。

夏野氏: そういう意味では、今日的な作品だと思う。

日本市場の限界?!

松本氏: 韓国はその辺りは立派ですよ。僕もこの前、Netflixで『イカゲーム』を見たけど、面白かったです。イカって、韓国語では「おじん」っていうんです。だから「おじんゲーム」になるんだけど。彼らは初めから世界市場狙いじゃないですか。携帯電話機でも。自国の市場は小さいから、サムソンでも昔のLGでも、初めから世界市場を狙ったんです。日本人は、国内マーケットがある程度あるから、まずそれを狙っちゃう。
こんな小説を映像化しようと思ったら、目の飛び出るような金がかかりますから。中国は自国市場の規模が日本の10倍ありますから、彼らならできるかもしれませんが、日本では映像化はとても無理でしょう。初めからNetflixかどこかと話して、韓国人がやってるみたいに世界市場で見極めをつけないと、そろばんは合いません。そう思いませんか? 夏野さん。

夏野氏: 道は長いと思います。何でかというと、韓国がそこでマインドチェンジした最大のきっかけは1997年の財政破綻なんです。財政破綻してIMFが入って、結局何をしたかというと、一斉に財閥の整理をやったわけです。サムスンはあのとき、自動車産業に参入しようとしただけど、そんなのはやめさせて、自動車はもう現代と起亜だけとか、家電はこことここだけとか整理をしたんです。
日本なんか、いまだに炊飯器作ってるメーカーが10社ぐらいあるんです。日立とか東芝っていう原発を作る会社まで炊飯器を作り続けている。炊飯器の市場どれだけでかいんだって思うんだけど。掃除機だって、ダイソンとそっくりな掃除機を日本の大手メーカーが作ってたり。現状維持なんです。そんなん全然採算も合わないし、もういいじゃん、それ統合すればっていうようなものを全部残すから。そうすると、国内の市場での競争があまりに激しすぎて、価格競争になっちゃって、みんな利益が出ないから成果転換できないんです。携帯電話メーカーって10社ぐらいあったのが、10年でほぼ全滅しました。
これは、みんな30年、40年も同じ会社でずっといるから、その会社を維持することが最大の目的になってしまって、競争とか戦略とか全然どうでも良くなっちゃってるんですよね

トーナメント戦を勝ち抜いた経営者

松本氏: 夏野さん、もっと言うなら、会社どころか「自分の課」ですよ。「そんなことやったらこの課はつぶさなきゃいかんじゃないか。君はこの課をつぶせというのか」と、こう言われるわけです。だから、何とかその課が生き残っていくために、小さいマージンででも続ける。こういう話が多いですよ。

夏野氏: 確かにね。何か変なんですよね。会社のためとかじゃないんですよ。

松本氏: トップがしっかりしてないから。「この仕事を続ければ君の課は生き延びられるかもしれないけど、君の課が生き延びるだけじゃ何の意味もないんだ。だから悪いけど死んでくれ」と、そういうことが言えるトップがいなきゃいけないですよね。

夏野氏: 今は、命は取らないからね。

松本氏: 命は取られないから万事甘くなるんですよ。しかし、死ぬよりもっといいのは、スピンオフして、自分らで小さいオーバーヘッドで仕事を続けることです。会社の方も「それなら支援するよ」と言ってやればいいんです。でも、日本の会社は、見ていると相当経営が駄目ですね。

夏野氏: そうなんですよ。

司会: この現状は、今からこの先も続きそうですか?

夏野氏: それを変えるために、政府の方がコーポレートガバナンスコードとか、社外役員の義務付けとかを一生懸命して、民間の企業がなかなか変わらないのを変えようとしてるっていう、滅茶苦茶な状況に今なってるんです。

松本氏: 突き詰めていくと民間が悪いんです。サラリーマンの優等生でトーナメント戦を勝ち上ってきた人だけが上の方にいますから。「次の部長を誰にするんだ」となると、どうしても安心・安全な方が選ばれます。私自身だって偉そうに言っていても、やっぱり自分がやったときは「あいつは面白いけど、ちょっと怖いからなあ」と思って、安心な方を取っていました。それでトーナメント戦を勝ち残ってきた経営者では、大胆な改革は無理でしょう。だから今、個人企業でワンマン経営の方が成績はいいでしょう。日本電産だとか、ユニクロだとか、個人経営の会社の方が強いですよね。


7. 若者よ、会社や社会をハックせよ!

司会: 私は多分若い方に入ると思うのですが。先ほど松本さんがこの本を読んで、これを通して視野を広げてもらうとか、何かと何かを繋げて新しいアイデアを生んでいただきたいとか、若者にそういうことを気付いてほしい、アイデアを出してほしいというお話もありました。私たち若者が、今後日本を変えていく、AIのこの時代により良い日本にしていくために、何かできることってありますか?

松本氏: もちろんあります。それどころか、若い人しかできないとも言えるでしょう。若い人は自信を持って上を突き上げてほしい。

司会: 何か信念を持ってという感じですか?

学校や会社は利用するもの

夏野氏: 僕は、会社とか、政府とか、学校とか、そういったものに頼らない、自分で切り開く。だって、会社なんか絶対あてにならないに決まってるじゃん。それなのに、結構みんな従順なんですよ。大学なんて、入学したらそれで別に終わりでいいじゃん。だって、みんなそういう学校なんだから。中途半端にみんな真面目だし。悪用って言ったら言い方悪いですけど、会社も学校も組織も、日本っていう政府もハックしてほしいんです。それを利用して俺は何をやる、私はこういうことを実現したいっていうのを利用してほしいんです。利用されるんじゃなくて。だって、利用すべきですよ。そんな一つの会社に一生勤めるなんて、ほとんどあり得ないですよ。自分のキャリア人生の方が、会社の寿命より長いんだから。だから、どうやったらこの会社を、俺は私は利用できるだろうって思ってほしいんです。それで何かやりたいことを。僕はSFが大好きだったんで、SFであるような世界を実現することに何か関わりたいってすごく思ってました。だから、電子マネーとか携帯電話でお金を支払うというのは、みんなSFの世界では通貨なんか使わないから。こういうiPhoneみたいなデバイスに全部機能が入ってて、ポイッて個人認証してお金払ってやるのを何とか実現したいと思って、ほんとにおサイフケータイで実現したもん。それは、たまたま入ったNTTドコモという会社を利用して、俺は何を実現できるかって考えたからです。だから、利用してくださいっていう話です。

司会: ありがとうございます。私がアドバイス頂いた形になりまして。SFとか松本さんのこの作品から、ここまで話が展開するとはちょっと思ってなかったので、すごい面白いお話を聞けました。。

夏野氏: 組織って、部活とかも、部のために命を捧げろみたいなこと言ってるやついるけど、違うんです。自分の能力を高めるために、この部が役に立つか立たないかで判断すれば良くて、立たなきゃ辞めて、違う民間のクラブか何かに行ったっていいんだもん。

松本氏: ほんとに今の若い人は、可能性ありますから。使える道具もいっぱいあるし。僕らの若い頃と比べたら、ものすごく恵まれてます。

夏野氏: 可能性がいっぱいあるから。

松本氏: ベンチャーにも金を出してくれる人が一応いるし。昔はそんなのあり得なかった。

夏野氏: あり得なかった。昔は銀行借り入れしかなかったんです。

アイデアを実現せよ!

松本氏: それから、あらゆるところに色々な技術があるじゃないですか。自分では何も技術的なインベントをしなくても、今ある技術の組み合わせをインベントするだけでも、仕事はできますよね。さっき私が作った変なものの話をしましたけど、当時はタッチパネルなんかなかったから、タッチパネルみたいなものがあったらなあと随分思いましたが、ないのだからどうしようもありませんでした。液晶やガラスから開発するわけにはいかないのですから。
中国のドローンが強いのは、深圳(しんせん)などに行ったらそれに関連する部品とかソフトとかの小間物屋がいっぱいあることです。日本だって、部品が強かったからトヨタとかが良くなった。今、ソフトもハードも部品がいっぱいあるんです。ということは、1人の人間のアイデアで、大きな潜在マーケットを狙えるチャンスがいっぱいあるということです。僕らのときは、部品がないから、良いアイデアはあっても良いものができないから、大体失敗したんです。今はアイデアがあったら成功確率は高いですよ

司会: いろんな機会があるということですね。

松本氏: あります。消費者だって多様化してるし。

起業に男女、年齢は関係ない!

司会: 今、コメントで40代ですがまだ若いですか? というコメントが来ております。いかがでしょうか?

松本氏: 僕はこの人の倍生きているのですから、まだ随分若いですよ。今40代の方って、そのうち15歳ぐらいまでは子供だったじゃないですか。だから、仕事に類する様なことを考え始めてからはせいぜい25年なんですよね。今から私の歳になるまでにはあと40年あるんだから、これまでの1.5倍以上。まだ半分も来てないですよ。若い若い。滅茶苦茶若い。

夏野氏: これは経産省の統計か何か忘れちゃいましたけど、2019年、コロナ前なんですけど、起業する年代で実は一番60代が多かったです。法人代表者の登記する割合は、実は60代が一番多かった。これ、すごいいいことだと思って。できればもうちょっと、40、50で起業した方がいいと思うけど。

松本氏: 有利ですからね。

夏野氏: 有利だから。

松本氏: それと、女性はいいですよ。僕見てると、女性がやる起業って割と成功率高いと思います。統計は知らないけど。なぜかと言うと、生活の実感からニーズを見ていることが多いからです。クロネコヤマトがいい例じゃないですか。クロネコヤマトは奥さんの方が最初のアイデアを出したんですよね。男はどちらかと言うと、観念的に行くんです。これからの世の中はこうなるとか、ああなるとか。それも必要なんだけど、実際のニーズに結び付いてる方が成功確率は高いですよね。そんなふうに思いません? 女性のやってる仕事って、割と小さい仕事でも成功してるケースが多い。

司会: 夏野さん、いかがでしょう。

夏野氏: 現実的な落としどころを見つけるっていうことをちゃんとやるから。ただ、人にはよるけどね。人にはよるけど、全体的に言うと、僕は女性の方がビジネスに向いてるって思う機会は、結構あります。社会性っていう意味では、女性の方が絶対社会性が高いので。男性女性っていう分け方はもはや意味ないとはいえ、女性の方が現実的なので。社交性も高いから、起業には向いてると思います。

松本氏: 男性的な特質は夢を追うことですね。それは重要なんだけど、落とし穴にはまりやすい。私なんか、落とし穴にはまりまくってきましたよ。

司会: それは深掘りしても大丈夫なんでしょうか?

松本氏: 失敗もしてるし、人にもだまされてます。これだけ失敗して、まだよく生き残ってるなあと思っています。今頃橋の下にいてもおかしくないんだけど。

司会: 起業は、お二方がおっしゃったみたいに機会もツールもたくさんあって。今、夏野さんがおっしゃいましたけど、年齢とか、女性男性とか関係なくみんながやろうと思えば、できるような時代ということですよね。

夏野氏: まさに。

目の前の事を120%でやれば道は開ける

松本氏: 時代は良くなってますよ。時代にぶつぶつ文句を言うのは、僕、あまり気に入らないんです。国がやってくれないとか、すぐ人のせいにして。

夏野氏: 僕結構過去の発言が批判を浴びて大炎上したんですけど。20代とか10代の人たちが日本は格差社会だから格差はなくさないと、みたいなことを言ってる10年前のツイートが取り上げられたんですけど。それぐらいの年齢だったら、むしろ目先のことにものすごい一生懸命取り組んで、何か成果を残してやろうとか、何か頑張る時期なんです。それを社会のせいにして、何もしなかったら何も起こんないっていう意味で、若者なのに格差のせいにしてって。だって、実際同じ20代だったら日本ってほとんど格差ないんですよ。なのに、格差がとか何とか言ってるのを。もうちょっと上になったら、結果的に俺は格差が克服できなかったとか言うのはいいんだけど、若いときっていくらでも、何でもできるし。むしろ、目の前のことを120%やれば道は開けていくんです。置かれた環境がどうだなんて、そんなこと言ってる場合じゃないんです。っていうことを言いたかったんだけど、大炎上して。全然別に差別してるわけじゃなくて、頑張る時期には頑張れよって言ってるだけなんですけど。ほんと、もったいない感じがする。

松本氏: 人のせいにするっていうのは一番無意味です。最も非生産的です。人のせいにしたら何か良くなるかっていったら、何も良くならないから。ぶつぶつ言ってるだけ損です。

夏野氏: ならないんです。目の前のことで120%やってれば、5年たった後にこんな違うんです。そこを80%でやってるやつと120%でやってるやつは、全然違うんです。

松本氏: そんな例はいっぱいあるじゃないですか。苦労してる人の方がそれだけ鍛えられるから強くなるのは当然です。いざというときの勝負所で強いから、最後はたくさん苦労をした人の方が勝つわけです。あまりに恵まれた環境にいた人は、最終的にはあんまり成功してないでしょ。当然そういう理屈になるんだから。だから、人のせいにするのだけはやめた方がいい

夏野氏: 言い訳になっちゃうからね。

松本氏: 言い訳して得なこと何もないんです。

夏野氏: 何も状況変わんないんだもん。

松本氏: 言い訳と人の悪口。人の悪口好きな人多いね。Twitterなんか見てたらよくわかりますよ。人の悪口を言っても、そのとき仲間内で盛り上がってうれしいだけで、何の役にも立たないです。

司会: 視聴者からいただいたコメントです。有名な方は良いところばかり目が行きますが、失敗したとき、上手くいかないときの生き方、考え方に違いがあるように感じました。あと、1日1日を大事にするという、ポジティブな意見もありました。

松本氏: うれしいですね。失敗しても生きていられるのなら、失敗はすればするほどいいです。失敗したら、やっぱり悔しいから、本当にひどい目に遭いますから、鍛えられますよ。僕は1回も失敗してない人と一緒に難しい仕事なんかする気はしないな。ひ弱いはずです。何かあるとポキッと折れますよ。

司会: ありがとうございます。お二方、今日はSFのお話から、お二人のこれからの生き方に関するお考えだったりとか、日本についてもいろんなお話いただきまして、非常に話が尽きないですけれども、そろそろお時間がやってきましたので。またお二人のお話ぜひ聞きたいですというコメントも来ておりました。今日はすごく充実した対談になったのではないかと思います。夏野さん、松本さん、本日は貴重なお話を、ありがとうございました。