Invent or Die 15 中島聡x成田悠輔

「Windows95を設計した日本人」として知られる世界的エンジニアの中島聡さんと、経済学者で実業家・米イェール大学助教授の成田悠輔さんの対談がまぐまぐ!LIVEで配信されました。対談のテーマは「日本で独立国家を作るには」という興味深いモノ。

中島聡×成田悠輔:日本の中に「独立国家」を作る?

成田悠輔(以下、成田):これまで「法定通貨」という仕組みがあって、これを使って「市場経済」を回してきたわけですよね。でも、その市場経済の取引だけで回していくと、格差というものができてしまって、一文無しになる人が出てきたり、片や資産100兆円の人が出てきたりするっていう問題があります。そこで、これをうまく調整するためのシステムとして「国家」みたいなものを作ったり、「税金」みたいなものを取ったりして、法律と暴力みたいなことを使ってきたんだと思います。で、そろそろこの2つを融合することができるんじゃないかなっていう気がすごくしているんですよね。

中島聡(以下、中島):成田さん的には、たとえば政治家に対してアドバイスをするとか、もしくは自分自身が政治家になっちゃうとか、そういうことは考えられていないんですか?

成田:その二つの道は「どん詰まり」だと思うので、やるとしたら、やっぱり「勝手にコミュニティを作る」とか「小さな国を作る」みたいなことになるんだろうなと思いますね。

中島:世界の国々の中で、例えば島国であまりお金を持っていない国があるじゃないですか。そういう国に「島を一つを買うから」と言ってお金をあげて「その代わりその島を国として独立させてくれ」って言ったら、金額次第では断れない国があると思うんです。独立は成立したとして、あとは「国連に認めてもらう」かどうかだけみたいになりますよね?

成田:そうです。

中島:プロセス的には、とても合法的に「国」を作れますよね。

成田:最近、それに似たようなものが出てるんですよね。たとえば島をベースに「州の微小国家」みたいなものを作ったり、コンクリの塊みたいなもの1個で島らしきものを無理矢理作って「独立宣言」して「国らしいものを作る」ということをやってる人が結構いるんです。あとは船を使った独立国家みたいな方向もあるのかな。

中島:人工島とかですよね。

成田:最近は、巨大なクルーズ船みたいなものですね、世界一周旅行とかで使われる船。あれを作るコストがかなり下がってきているみたいなんです。

中島:そもそも余っているでしょうね。

成田:クルーズ船がちょっとした「人工の島」みたくなっていて、勝手に航海していれば「そのクルーズ船に対しては、どこの国の法律も直接には及ばない」みたいな不思議な状況が生まれているらしいんです。なので、その船を「国家」とみなして、勝手に独立宣言するみたいなことも、もしかしたらできるかもしれない。日本のことで言えば、近海に大量に小さな島があるじゃないですか。日本の島って限界集落化しつつあるところが多いんです。もともと人が住んでいたんですが、どんどん人口が減っている。人がだんだんいなくなってきたけど辛うじて生活のためのインフラは残っている、みたいな島がボコボコ出始めているんです。瀬戸内海だと結構ある。

中島:確かに、そういう島って結構ありますよね。

成田:そういった島は、実質的に「乗っ取る」ことができる感じですよね(笑)。

日本の離島が「独立エリア」になる未来

中島:でも「独立宣言」したら日本政府は許さないでしょう?

成田:そうですね。だから、表立って「独立宣言」をするというよりは、実質的には「勝手に別のシステムを作りだしてしまう」という感じになるのかなと思うんです。僕の知り合いにも、瀬戸内海の島の一部を買って移住してみた人がいて、そこには誰も住んでいないんだけど「昔のインフラ」だけは残っているみたいな感じらしいんですよ。誰がそこの所有権を持っているのか分からないんですけど、実質的にそこに住んでいる人はその知り合いしかいないので、その人が「島を支配している」ように見えるみたいな状況になっているらしいんです。そういう「デフォルトとしての独立島」みたいなものは、割と簡単に作れるのかもしれないなと思っています。

中島:ただ、所得は日本政府に把握されちゃいますよね。

成田:ですから、そういう島では、日本の経済システムの中には入っているんだけれども、それと並行して「別の通貨システム」とか「別の選挙システム」みたいなものをそこで動かし始めるっていう形が一番穏健なのかなと考えています。

中島:選挙はできちゃうのか。

成田:選挙はできます。「選挙を支配する」みたいなことは簡単にできるのかなと思っています。要は、自治体の過半数を奪ってしまえばそれでいいわけですよ。それで言うと、数百人から数千人の単位の人を移住させることさえできれば、ほぼ支配できちゃう小さな自治体はたくさんあると思うんです。

中島:私の知り合いでも、瀬戸内海の小さな島に「船宿」を持っている人がいるんですけど、そこも14軒しか家がありませんでした。その人がすごい人で、なぜ宿にしたかって言うと、海岸線の土地を買ったんだけど、一般の家だと建てちゃいけないっていう法律があって、でも「宿だったら建ててもいい」ということで船宿を建てて、その代わり一泊100万円にしているから誰も来ないっていう状況だそうです。ものすごく立派な宿を建てていて、そこに大きなお風呂があるんですけど、なぜかそのお風呂のお湯、というか水は、フェリーを使って運んできているらしいんですよ。日本の法律で「水の値段は安くなきゃいけない」と決められているらしくて、そのフェリーで運んだ水を大量に使ってお風呂に入っているそうなんです。

成田:瀬戸内海の島って、水を船で運ぶしかない状況って割と多いですよね。

中島:だから、この島の生活は経済的には成立していないんです。でも、水はものすごく高いはずなのに、その島はまだ独立してないから、その水が県からもらえるという。

成田:そういった形で、既存の国家の仕組みの中でも使える部分は使いながら「実質的な独立エリア」みたいなものをどう作るかっていうアイデアは面白いと思います。結局、純粋な独立国家としてその中で採算を取ろうとすると、どうしても誰かがドカンとお金を入れるしかないっていう形になっちゃうと思うんです。その形じゃなくて、「普通の人でも作れるようなコミュニティ」というモノをどうやったら作れるかっていうことが大事なのかなと思います。

中島:あんまり「国家」という形にはこだわらずに、それよりもやっぱり「投票のシステム」と「小さな経済圏」ですよね。

成田:あまりお金を持っていない、特に普通の若い人たちでも、そういったものが作れるような仕組みをどうやって作れるかということが大事なのかなと思っていまして。今ちょっと10代の人たちと一緒にいくつかの実験を始めているんです。

中島:いいですね、それ。なんか楽しいかも。

アメリカで「町」を作ってしまったインド人宗教指導者

成田:昔からそういった試みがあったみたいで、中島さんの世代はご存知かもしれないですが、1980年代ぐらいに世界を席巻した宗教指導者でバグワン(バグワン・シュリ・ラジニーシ、インドの瞑想指導者、精神指導者、神秘家)っていう人がいたのを覚えてらっしゃいますか?

中島:いや、覚えてないです。

成田:バグワンっていう「麻原彰晃のグローバル版」みたいな人が80年代にいたらしいんですよ。

中島:それってヒッピーの流れですか?

成田:それに近いんですが、でもその人は、インド初の「謎の新興宗教指導者」なんです。その人の右腕でスポークスマン的な女性がいて、これがオウムの上祐史浩(元オウム真理教外報部長)そっくりなんです、いろいろな意味で。その二人が指導している「インド初の新興宗教」が、インドで問題を起こしたらしくてアメリカへ移住したんです。移住したアメリカの田舎町に乗り込んでいって、そこで突然「町」を作り始めるんです。山を開拓したり、自分たちで農園を作ったり、建物を作ったりしてみたら、本当に「物理的なインフラとしての町」をゼロから作ってしまった。さらに面白いのは、アメリカ全土の各地にいるホームレスに、バス代を払ってその「町」に来てもらうっていう運動を始めるんです。

中島:社会の役に立っているじゃないですか。

成田:そうすると、そのホームレスの人々は「選挙権」を持てるようになります。その新興宗教の信者と彼らがお金を払っているホームレスたちで「過半数」を取って、選挙と自治体の政治的な権限を全部奪い取る、っていうことをやったことがあるんですよ。

中島:面白いです。今、日本だったら若いフリーターがいっぱいいるじゃないですか。そういう人たちを集めるという。

成田:どうせ「悲惨な生活」を続けなければいけないのであれば、そういう「楽しいギャンブル性のある悲惨さ」を目指した方がいいんじゃないかなと。

中島:そこで成田さんが王として君臨するんですね。

成田:いや、僕は「事務局員」みたいな形で裏方がいいかなと思っています。

中島:上祐ですか?

成田:今、スポークスマン的な人を探しているところです。僕、元々そんなに表に出たい人間じゃないんです。どっちかっていうと裏でヘラヘラしてるほうが好きなタイプの人間なので。

中島:面白い設計をしたりしてね。でも面白いです、「どう設計するべきか」とか。

若者の「絶望感」をリセットするための「独立国家」

内田まさみ(以下、内田):一つだけ伺ってもいいですか? そうやって「小さな国」みたいなものを作るっていうことが、そもそもどういうことに繋がるんですか?

成田:結局は「自分たちで仕組みを作れる」っていう感覚を取り戻すことが大事だと思うんです。今の日本みたいな国での「絶望」って何かというと、要は20代とか10代の人とかが、「この国の意思決定とか国の行方に影響を与えている」っていう感覚が、もう1ミリも無くなっちゃっていると思うんです。でもそれはそうですよね、選挙に行ってる人たちの過半数が60代以上だし、永田町を見ても自民党の偉い先生たちがいろいろなことを決めていて、その偉い先生たちは若くても60代。しかもメインの人たちは7、80代みたいな感じじゃないですか。なので、「何も影響を与えようがない」「何も変えようがない」っていう絶望感を、少しリセットできるようなローカルな場所をつくるってことが大事なのかなと。それをちょっと過激に表現してみると「独立国家」みたいな存在になるのかなと。そういった小さいコミュニティみたいなものが、日本のいろいろなところでボコボコ立ち上がるような流れを作り出せたら、その集合体みたいなものが日本という国のメインストリームへの対抗馬になり得るかもしれないなって、そんな感じのビジョンです。

内田:それが、何か日本を大きく変えるキッカケになり得るってことですか?

成田:あとは単純に「ちょっと面白そうだからやってみるか」っていうのもありますよね。僕たちが物を作る時や研究をする時でも、いろいろと「小さな実験」をするじゃないですか。それと同じように、社会や国家についても「別の仕組みを試したらどうなるんだろうか」という、実験をするようなマインドセットを取り戻すことが大事なのかなと。国や社会の仕組みのようなものが大きくなりすぎて複雑になりすぎたがために、僕たちはすでに存在している国や社会というものの中で生きて行くのは当然だっていう感覚を植え込まれて、思い込まされてしまっていると思うんです。でも、19世紀ぐらいまでの社会を考えてみると、訳のわからない政治の仕組みとか、経済の仕組みなどをみんなが試していて、そのほとんどは消え去って、今使われているような仕組みがだんだんと残ってきたという感じですよね。その意味で言うと、「数百年ぐらい時計の針を巻き戻してみる」ってことが大事なんじゃないかなと思っているんです。

内田:ありがとうございます。

中島:とても深いです。

成田:中島さんは、こういうタイプの話に、元々ずっとご興味があった感じなんですか?

中島:僕はちょうどいい立ち位置に居るんです。ずっとアメリカに住んでいるけど日本語で発言しているので。日本人でありながら第三者的に日本のことを語る、それが別に好きってわけじゃないけど、ポジション的にそうなってしまっていて、日本の政治システムだったり、官僚システムだったり、経団連とか、そういう旧態依然としたものは変えるべきだって昔から言ってるけど、まったく変わらないじゃないですか。「変わらないんだな」っていう意思は持っていて、どう変えようかとは考えていなかったんですけど、「これは無理だな」という意識を持っていたから、成田さんの発言は結構フレッシュに響きました。私の「第三者的に日本を語る」ネタの一つとしては、もう最適な材料です。面白い。