以前、ある大企業の役員へのインタビューを見て驚いた。
内容の多くが、少し調べれば分かるような質問ばかりだったからだ。
しかも、その役員の方は途中から少しあきれているように見えた。質問には答えているものの、「それは公開情報を見れば分かる話では?」という空気が伝わってきた。
そのことを話すと、「あえて前提知識のない状態で質問することで、一般の視聴者にも分かりやすくなる」という意見を聞いた。
確かに、その考え方には一理ある。難しい話よりも、初歩的な質問のほうが視聴者には親切かもしれない。PVという観点だけを見れば、それが正しい場面もあるだろう。
しかし、そこには見落とされがちな視点がある。
その役員クラスの人の1時間は、企業価値への影響まで考えれば何百万円もの価値を持つことも珍しくない。その貴重な時間を使ってもらうなら、事前に公開情報を読み込み、その人だからこそ答えられる質問を準備するのが最低限の礼儀ではないだろうか。
そして、もっと重要なのは「次の仕事」である。そのインタビュアーが、今度は別の大企業へ取材を依頼するとする。そのとき、実際に判断するのは広報、秘書、総務、あるいは担当役員だ。当然、過去のインタビューも確認される。
そこで、「会社のホームページを見れば分かることしか聞いていない」「事前調査をしていないように見える」と判断されたらどうなるだろうか。多くの企業は、丁寧にお断りするはずだ。理由は簡単である。
「この人に貴重な時間を使う価値があるのか」が判断されるからだ。
つまり、インタビューは視聴者だけを相手にしているわけではない。未来の取材先も、スポンサーも、採用候補者も、同業者も、そしてその会社の社員も見ている。メディアは「誰が見ているか」を考えなければならない。
結局のところ、長く続くメディアが積み上げるべき資産は、PVの数ではなく「信用」である。そのためには、丁寧な事前調査を行い、公開情報では答えが出ない質問を準備することが要る。ときには相手が少し考え込んだり、「そこまで調べてきたのか」と戸惑ったりするくらい、本質を突く質問を投げかけることも効いてくる。
もちろん、失礼な質問をするという意味ではない。十分な準備があるからこそ聞ける、相手に新しい視点を与える質問である。そうしたインタビューは、視聴者に価値を提供し、出演した企業や経営者にも「このメディアは真剣に向き合ってくれる」という印象を残す。
すると、こちらから出演をお願いするだけではなく、「ぜひ出演したい」「新しい取り組みを紹介したい」と、企業側から声が掛かるようになる。
そして、これはインタビューだけの話ではない。
営業でも、コンサルティングでも、採用でも、提案書でも、ソフトウェア開発でも同じである。相手のことを徹底的に調べ、背景を理解し、「この人はここまで準備してきたのか」と思われる仕事をする人には、次の仕事が集まる。一方で、その場だけを乗り切るような仕事は、短期的には成立しても、信用という資産は積み上がらない。
どんな仕事でも、本当に評価されるのは一回の成果だけではない。
「この人にならまた頼みたい。」
そう思ってもらえることが、本当の価値である。短期的には、浅く分かりやすいコンテンツや、最低限の準備でも成果は出るかもしれない。しかし、長期的に価値を生むのは、相手からも尊敬され、信頼される仕事である。
PVは消費される。
信用は積み上がる。
そして、その信用こそが、仕事を呼び込み続ける一番の資産なのだと思う。





