誰かの家に行って、道具の置き方に感心することがあります。
冷蔵庫に貼ってある買い物リストの書き方とか、鍵とレシートの置き場所とか。自分も真似しようと思って帰るのですが、細かいところを覚えていなくて、二、三日で元に戻ります。
真似したかったのは思想ではなく、具体的な配置のほうでした。それが持ち帰れません。
ソフトウェアでも、似たことがずっと起きています。
部品は共有されてきた
プログラムの部品は、何十年も前から共有されてきました。
誰かが書いた日付の計算や、画像の読み込みを、自分のプログラムに持ってきて使う。いまでは一行書けば入ってきますし、世界中の人が同じものを使っています。この仕組みがあるから、ソフトウェアはここまで速く作れるようになりました。
ところが、アプリそのものはほとんど共有されてきませんでした。
誰かが使っている在庫管理のアプリを持ってきて、自分の事情に合わせて項目をひとつ足す。これが普通にはできません。できるのは、作った人が想定した使い方の範囲までです。それを超えたければ、ソースを読んで、環境を作って、ビルドして、という話になります。
冷蔵庫の買い物リストと同じで、真似したい具体的な形があるのに、持ち帰れないままでした。
形とデータが一体だったから
持ち帰れなかった理由ははっきりしています。アプリが、形とデータと、それを動かすプログラムをひとまとめに抱えていたからです。
人に渡せるのはプログラムのほうで、そこにはその人の事情が焼き込まれています。項目を足すには、焼き込まれたところを探して書き換えることになります。
形だけを配る
MulmoClaude のコレクションは、ここが違います。
MulmoClaude は、パソコンに入れて使うアプリです。ターミナルで1行打つと立ち上がり、ブラウザで開きます。無料で、オープンソースとして公開されています。AI との会話欄に管理したいことを伝えると、項目が決まって、入力する画面と一覧の表ができます。こうしてできた自分専用の小さなアプリをコレクションと呼んでいます。
コレクションは、どんな項目があってどう見せるかという宣言と、記録そのものが分かれています。人に配れるのは宣言のほうだけです。
だから、取り込んでも他人のデータは入ってきません。カメラのレンズの図鑑を取り込んでも、その人のレンズは付いてきません。空の状態で始まります。
逆に、自分が公開するときも同じです。自分が入れた記録は含まれず、形だけが出ます。うっかり自分の記録を世界に出してしまう、ということは起きない作りです。
取り込む前に中身を読める
画面の Collections から Discover を開くと、公開されているものが並びます。ボタンを押すと自分の環境に入ります。
いま4つあります。カメラのレンズ図鑑、映画リスト、気象庁の天気予報板、上京の転居先を比べる台帳。
4つ目が、この仕組みらしいところだと思います。「転居先を比べる」は既存のアプリには無い形です。家賃と通勤時間と間取りと、自分が気にする条件を並べて比べたい、という個人の用件です。そういうものが作れて、しかも配れると分かるのが、一覧を眺める価値だと思います。
そして、取り込む前に中身を読めます。
置き場所は GitHub にあるので、何を管理するもので、どんな項目があって、どういう画面が付いているかが全部テキストで読めます。何が入っているか分からないものを、自分の環境に入れる必要はありません。
AI が絡む道具で他人の成果物を使うとき、気になるのはたいてい「中で何をしているか分からない」ことです。ここについては、入れる前に確かめられます。
取り込んだあと、自分に合わせる
取り込んだものが自分に合っているとは限りません。そのまま使う必要はなく、会話欄で伝えれば変わります。
マウントの項目は要らない
買った日と価格も入れたい
焦点距離で並べ替えたい
冒頭の冷蔵庫の話に戻ると、ここが一番違うところです。配置を持ち帰れるだけでなく、持ち帰ってから自分の台所に合わせて動かせます。他人の形を尊重しなくてかまいません。
作るものが思いつかないときも、4つのうち一番近いものを取り込んで変えていくほうが早いです。ゼロから項目を考えるより、あるものを直すほうが楽ですし、直しているうちに「自分が本当に管理したかったのはこれだった」が出てきます。
自分のものを公開する
作ったものを公開することもできます。
置き場所は receptron/mulmoclaude-collections で、自分の GitHub の名前のフォルダの下に3つのファイルを入れます。何をするものかの説明、項目と画面の宣言、作者と説明です。
この3つを手で書く必要はありません。MulmoClaude でそのコレクションを開いて、公開できる形にまとめるよう伝えると作ってくれます。そのあと GitHub に提案(プルリクエスト)を出します。
自分の名前のフォルダの下にしか置けないようになっているので、他の人の場所を上書きすることはありません。
公開したくないけれどチームで同じ形を使いたい、という場合は、公開の一覧ではなく自分たちの置き場所を指定できます。社内の GitHub でも同じ形で共有できるので、公開と共有は分けられます。
使ってみる
MulmoClaude は、次の1行を打つと立ち上がります。ターミナル(Windows なら PowerShell、Mac ならターミナル)を開いて、そのまま貼り付けます。
npx mulmoclaude@latest
ブラウザが開いて http://localhost:3001 が表示されれば成功です。インストールという作業はなく、合わなければ閉じるだけで終わります。
動かない場合、足りないものは次の2つのどちらかです。
| 確かめ方 | 無い場合 | |
|---|---|---|
| Node.js 22.19 以上 | node -v |
nodejs.org/ja/download の LTS を入れ、ターミナルを開き直す |
| Claude Code | claude --version |
macOS は curl -fsSL https://claude.ai/install.sh | bash、Windows は irm https://claude.ai/install.ps1 | iex。そのあと claude でログイン |
Claude Code は、AI(Anthropic の Claude)をターミナルから使うためのコマンドです。MulmoClaude はこれを裏側で呼んでいます。使うには Claude の有料プラン(Pro / Max / Team / Enterprise)か API のアカウントが必要で、無料プランには含まれていません。MulmoClaude 自体は無料で、AI の使用量はその契約から引かれます。
立ち上がったら、画面の Collections を開いて、Discover のタブを押します。気になるものがあれば、先に GitHub のほうで中身を見てから、インポートを押します。
Collections に増えていて、中身が空なら成功です。形だけが来て、作った人のデータは来ていません。
要らなくなったら「このコレクションを消して」と言えば消えます。取り込んだだけなら、消しても失うものはありません。
まとめ
プログラムの部品は何十年も共有されてきましたが、アプリそのものは共有されてきませんでした。形とデータとプログラムが一体になっていて、人に渡せるのはプログラムだけだったからです。
コレクションでは形と記録が分かれているので、形だけを配れます。取り込んでも他人のデータは来ませんし、公開しても自分の記録は出ません。取り込む前に中身を読めるので、分からないものを自分の環境に入れる必要もありません。
そして取り込んだあと、自分の事情に合わせて変えられます。誰かの台所の配置を持ち帰って、自分の台所に合わせて動かせる、というのが変わったところです。
