読んだ本を記録するとき、書名や著者名をメモして、あとから一覧で見返すことがあります。
最初はメモ帳アプリに書いていて、そのうちエクセルでの管理になって、検索が欲しくなって専用アプリを探す。外でも使いたいから Web アプリに移って、でもそれが不便でまた別のものに乗り換える。気に入った Web アプリでも、数年したら閉じてしまったりする。
そんな経験はないでしょうか。
長期的にデータを持ち続けて、それをどこでも使いやすく使う。これがとても難しくて、パソコンができてから50年以上、延々とその悩みを解消するために試行錯誤してきたのが、パソコンとインターネットの歴史だったりします。
乗り換えの正体
乗り換えるとき、本当に欲しかったものは何だったでしょうか。
多くの場合、画面です。表しかないから表紙の並ぶものを探す。パソコンでしか見られないから外で見られるものを探す。集計が無いからグラフの出るものを探す。
データそのものに不満があって乗り換えた、という記憶はあまりありません。データは同じです。書名と著者と読了日。
それなのに、画面を変えるためにデータごと引っ越すことになります。CSV で出して、形式を直して、取り込む。取り込めない項目は捨てる。ここで記録が少し欠けます。そして数年後、移った先が閉じて、また同じことをします。
画面が欲しかっただけなのに、毎回データが人質に取られている。これが50年繰り返されてきたことです。
いま変わったこと
ここ数年で、前提がひとつ変わりました。AI が、文章から画面を作れるようになったことです。
これが効いてくるのは、順番が逆になるからです。
これまでは、気に入った画面を持っているサービスを探して、そこにデータを預けていました。画面が先で、データが後。だから画面を変えたければデータを動かすしかありませんでした。
いまは、データを自分で持ったまま、画面のほうを作れます。データが先で、画面が後。
そして画面は、一度作って終わりではありません。使っているうちに「ここはこう見たい」が出てくるので、その都度足したり直したりできます。育てられる、というのがこれまでとの違いです。探して当てるものではなくなりました。
MulmoClaude
MulmoClaude は、それをやるための道具のひとつです。パソコンに入れて、ブラウザで開いて使います。無料で、オープンソースとして公開されています。
画面には AI との会話欄があります。そこにこう打ちます。
読んだ本を記録したい。書名と著者と読了日と評価。
これだけで、入力する画面と一覧の表ができます。項目の種類も画面の並びも指定していません。日本語で伝えただけです。
こうしてできた自分専用の小さなアプリを、MulmoClaude ではコレクションと呼んでいます。
記録は、パソコンの中の ~/mulmoclaude/ というフォルダに素のファイルとして置かれます。どこかのサービスに預けているわけではないので、MulmoClaude を消してもフォルダは残りますし、テキストエディタで開けます。冒頭の「数年したら閉じてしまった」は、ここでは起きません。
画面を足す
コレクションでは、記録と画面が別々に持たれています。画面は記録の上に乗っているだけです。
読書記録のコレクションを開いて、会話欄にこう打ちます。
表紙を並べて見たい
表紙が並ぶ画面ができます。元の表は消えず、画面を切り替えるタブが1つ増える形になります。
思いついたものは、その都度足して構いません。
読みたい本だけ出して
著者ごとにまとめて
今年読んだ冊数を月ごとにグラフで
画面を足しても、記録は1件も変わりません。要らなくなった画面を捨てても、記録は残ります。CSV で出して形式を直して取り込む、という作業はどこにも出てきません。
AI に頼むだけなら、他でもできます
ここまでの話は、MulmoClaude でなくてもできなくはありません。AI に「読書記録を作って」と頼めば、入力できるページと保存の仕組みを書いてくれる道具は他にもあります。
ただ、そのやり方には続きがあります。
次に「表紙を並べて見たい」と頼むと、AI はまた一から書きます。前に作ったものの形を正確に覚えているとは限らないので、項目の名前が微妙に変わったり、保存の場所が変わったりします。何度か頼んでいるうちに、前のデータと新しい画面が噛み合わなくなります。
半年分の記録が入ってから、これが起きるとつらいところです。
形を1か所に宣言しておく
MulmoClaude のコレクションは、ここを作りで解いています。
データにどんな項目があるかは、スキーマという宣言として1か所に置かれています。画面はそれぞれ好きに解釈するのではなく、その宣言から描かれます。
だから画面を足しても、データの形は変わりません。3枚目の画面を足したせいで、1枚目の画面が読めなくなる、ということが起きない作りです。
保存されるのも素のデータだけです。合計や割合のような計算した値は保存されず、見せるときにホストが計算します。データの中に計算結果が混ざらないので、あとから集計の仕方を変えても、元の記録はそのままです。
読んだ本の記録が、半年後も一年後も同じ形で残って、そのうえで見る画面だけが増えていく。これが、AI に毎回まるごと作らせるのとの違いです。
壊れる先がない
こうした枠があるうえで、画面を足すこと自体にも、もともと危なさがありません。
画面は記録の上に乗っているだけなので、追加しても記録は変わりません。気に入らなければ「さっきの画面は消して」と言えば消えますし、消しても記録は残ります。
作りはじめる時点で画面を設計する必要もありません。表は最初から付いてくるので、まずそれで使って、実際に不便を感じたときに足す。使う前に想像した画面は、だいたい要らないからです。
頼むときは、画面の見た目ではなく、何に使うかを伝えるほうがうまくいきます。「カードを3列で並べて画像を上に」と指定するより、「次に読む本を選ぶときに使いたい」と伝えたほうが、何を大きく出して何を隠すかが自然に決まります。
読書記録以外でも同じ
家計の記録なら、入力するときは明細の画面、月末に見るときは月ごとの合計、年末に見るときは費目ごとの集計、という具合に場面が3つあります。冷蔵庫の中身なら、買い物に出る前に見たいのは切れているものの一覧で、献立を考えるときに見たいのは今あるものの全体です。
場面が複数あるものなら、どれでも同じことが言えます。そして場面は、使っているうちに増えます。
使ってみる
MulmoClaude は、次の1行を打つと立ち上がります。ターミナル(Windows なら PowerShell、Mac ならターミナル)を開いて、そのまま貼り付けます。
npx mulmoclaude@latest
ブラウザが開いて http://localhost:3001 が表示されれば成功です。インストールという作業はなく、合わなければ閉じるだけで終わります。
ターミナルを開かずに使いたい場合は、一度だけ次を実行するとアイコンができます。
npx mulmoclaude@latest create-shortcut
動かない場合、足りないものは次の2つのどちらかです。
| 確かめ方 | 無い場合 | |
|---|---|---|
| Node.js 22.19 以上 | node -v |
nodejs.org/ja/download の LTS を入れ、ターミナルを開き直す |
| Claude Code | claude --version |
macOS は curl -fsSL https://claude.ai/install.sh | bash、Windows は irm https://claude.ai/install.ps1 | iex。そのあと claude でログイン |
Claude Code は、AI(Anthropic の Claude)をターミナルから使うためのコマンドです。MulmoClaude はこれを裏側で呼んでいます。使うには Claude の有料プラン(Pro / Max / Team / Enterprise)か API のアカウントが必要で、無料プランには含まれていません。MulmoClaude 自体は無料で、AI の使用量はその契約から引かれます。
立ち上がったら、会話欄にこう打ちます。
読んだ本を記録したい。書名と著者と読了日と評価。
Collections という場所に新しいものが増えているはずです。開いて何行か入れてから、見たい形を伝えます。画面を切り替えるタブが増えていれば成功で、元の表も残っています。
まとめ
記録の道具を乗り換え続けてきたのは、画面が気に入らないたびにデータごと引っ越すしかなかったからです。データに不満があったわけではありません。
AI が文章から画面を作れるようになったので、順番を逆にできます。データを自分で持ったまま、画面のほうを作る。一度作って終わりではなく、使いながら育てられます。
MulmoClaude では、データの形がスキーマとして1か所に宣言されていて、画面はそこから描かれます。だから画面を何枚足しても、記録は同じ形のまま残ります。記録そのものは ~/mulmoclaude/ に素のファイルとして置かれるので、サービス終了で行き場を失うこともありません。
探して当てるものだったのが、作って育てるものになった、というのが変わったところです。
