作ったものを人に見せるのは、昔からずっと面倒でした。
フロッピーに入れて手渡して、相手のパソコンで動くかどうかは行ってみないと分からない。CD-R に焼いて、インストーラを付けて、動かない人からの電話を受ける。Web に置けるようになって楽になったと思ったら、今度はサーバーを借りて、ドメインを取って、動かし続けることになる。
個人が作ったものが人の手に届くまでの距離は、50年かけてずいぶん縮まりましたが、ゼロにはなっていません。
作れるのに渡せない
ここ数年で、作るほうの距離は一気に縮みました。AI に文章で頼めば、入力できるページくらいは出てきます。プログラムを書けない人でも、画面で動くものを持てるようになりました。
ところが、そこで手が止まります。
動いているのは自分のパソコンの中です。友人に見せようとすると、画面を録画して送るか、画面共有で「いま開くので見てください」と言うことになります。どちらも見せただけで、渡してはいません。
渡せないものには、できないことが3つあります。相手の都合のいい時間に開いてもらえない。3人に同時に使ってもらえない。書いてもらった内容が一か所に集まらない。
これは技術の問題というより、実演と道具の違いです。実演は立ち会いが要ります。道具は置いておけます。
Google フォームで足りるなら、それでいい
先に書いておくと、アンケートや出欠の多くは Google フォームか表計算で足ります。わざわざ作る必要はありません。
足りなくなるのは、こういう注文が入ったときです。
定員があって、埋まったらキャンセル待ちにしたい。申し込んだ人には自分の分だけ見せて、他の人の分は見せたくない。予約を担当者が承認する形にしたい。会費の計算を入れたい。見た目を自分のイベントに合わせたい。
このあたりから、既製のサービスだと遠回りになります。そして作ろうとすると、また冒頭の「渡せない」に戻ってきます。
フォルダひとつが、アプリひとつ
MulmoTerminal の共有アプリは、この最後の距離を詰めるものです。
MulmoTerminal は、AI に頼んで作業させるための画面です。パソコンに入れるのではなく、ターミナルで1行打つと立ち上がり、ブラウザで開いて使います。無料で、オープンソースとして公開されています。
新しい空のフォルダを作って、そこで AI に欲しいものを伝えます。
10月の勉強会の申し込みフォームを作って。30席。名前とメールと、
来られない場合に録画が欲しいかどうか。30人埋まったらキャンセル待ちに回して。
フォルダの中に、設計を書いたファイルとページができます。設計のファイルは普通のテキストなので、開いて読めます。何を聞く項目があって、どう見せるつもりなのかが、そこに書いてあります。
公開すると、自分のパソコンが経路から外れる
できたものを公開すると、リンクが返ってきます。
ここから先、そのアプリはあなたのパソコンを通りません。ノートを閉じても、電源を切っても、旅行に出ても、リンクを持っている人には動き続けます。手元のフォルダは、それを編集するための原本になります。
土曜の朝に会場で椅子を並べているあいだも、申し込みは進みます。冒頭の「実演と道具の違い」は、ここで解消します。
開く人によって、見えるものが変わる
集まった回答は、一か所にまとまります。3人が3つの端末から書いても、3つのファイルができるのではなく、1つの表に3行入ります。
ただし、全員が同じものを見るわけではありません。
リンクを送られた人 → フォーム。送ると結果が返る
あなた → 全部の行、人数、待っている人
申し込んだ人が後日 → 自分の行だけ
3行目が、普通のフォームには無い状態です。送信したらもう見られない、か、全部見られる。そのどちらでもない「自分の分だけ後から見られる」を作るのは、意外に手間がかかります。
そしてこれを決めているのは、あなたが書いたページではありません。参加者のページには、そもそも他人の行が届いていません。ページの側で絞る作りだと、そこに間違いがあれば全部見えてしまいますが、届いていないものは表示のしようがありません。
自分で中身を読み切っていないコードでも、他人の連絡先が漏れないのは、このためです。
公開が、必ず世界に見せることではない
もうひとつ、押す前に知っておくところがあります。
公開ページを作らなければ、名簿に載せた人しか開けません。社内の引き継ぎや、決まったメンバーだけの作業ボードなら、この形が素直です。
公開ページを作った場合は、押した瞬間から知らない人の前にあります。リンクを誰にも送っていなくても、住所を知られれば開けます。勉強会の申し込みはこちらになるので、押す前に自分で見ておくことになります。
見る手順は用意されていて、公開サイトと同じものを手元で動かせます。本番より甘くはならないので、そこで通ったものは本番でも同じように動きます。
できないこと
パソコンが経路に入らないという性質から、できないことも出ます。
サーバーで自分のプログラムを動かすことはできません。「送信されたら外部のサービスを呼んで、その結果を保存する」といった処理は入りません。できるのは集めて、見せて、数えるところまでです。
自動でメールを送ることもできないので、申し込みがあったかどうかは受付の画面を見に行く形になります。そのかわり、あなたが寝ていても止まりません。
見た目も付いてくる
これは実用上かなり効きます。
用意されている型には、最初から配色や字送りや余白が入っています。理由は率直で、素っ気ない見た目のフォームは「簡素」ではなく「未完成」に見えるからです。そして人は、未完成に見える予約フォームを閉じます。
手作りのフォームが使われない理由の大半は、機能ではなくここにあります。
使ってみる
MulmoTerminal は、次の1行を打つと立ち上がります。ターミナル(Windows なら PowerShell、Mac ならターミナル)を開いて、そのまま貼り付けます。
npx mulmoterminal@latest
ブラウザが開いて http://localhost:34567 が表示されれば成功です。インストールという作業はなく、合わなければ閉じるだけで終わります。止めるときは、打ったターミナルで Ctrl + C を押します。
動かない場合、足りないものは次の2つのどちらかです。
| 確かめ方 | 無い場合 | |
|---|---|---|
| Node.js 22.12 以上 | node -v |
nodejs.org/ja/download の LTS を入れ、ターミナルを開き直す |
| Claude Code | claude --version |
macOS は curl -fsSL https://claude.ai/install.sh | bash、Windows は irm https://claude.ai/install.ps1 | iex。そのあと claude でログイン |
Claude Code は、AI(Anthropic の Claude)をターミナルから使うためのコマンドです。使うには Claude の有料プラン(Pro / Max / Team / Enterprise)か API のアカウントが必要で、無料プランには含まれていません。MulmoTerminal 自体は無料で、AI の使用量はその契約から引かれます。
立ち上がったら、次の順で進みます。
- 新しい空のフォルダを作ります。デスクトップでかまいません
- 空いているマスをクリックして、上のタブで Claude を選びます
- WORKING DIRECTORY にそのフォルダのパスを入れて、右の再生ボタンを押します

- 開いた画面に、欲しいものを日本語で伝えます
- 公開する前に、コレクションのパネルから Previews を開いて自分で見ます
- 問題がなければ「公開して」と頼みます
返ってきたリンクを自分のスマホで開いて、パソコンを閉じた状態でも開ければ成功です。
社外に出したくないものなら、先に「公開ページは作らないで」と伝えておきます。名簿に載せた人しか開けなくなります。
まとめ
個人が作ったものを人に届ける距離は、フロッピーの時代から少しずつ縮んできましたが、最後のところが残っていました。AI で作れるようになっても、自分のパソコンで動いているものは渡せません。
共有アプリでは、フォルダひとつを公開すると、そこから先は自分のパソコンを通りません。開く人によって見えるものが変わり、その振り分けはページの側ではなく、その下で決まっています。
公開ページを作るかどうかで、世界に見せるか名簿の中だけにするかも分かれます。押す前に手元で確かめられるので、そこは先にやっておくのが安全です。
