障害対応の記録や引き継ぎのように、「あとから書き換えられないほうが価値がある」記録があります。帳簿が間違いを消しゴムで消さず、二重線で訂正印を押すのと同じで、間違えたこと自体に意味がある、という種類の記録です。
ところが AI に「障害対応の記録板を作って」と頼むと、ふつうは編集できる記録板が出てきます。あとから直せたほうが普通だからです。この記事は、追記しかできない記録板を MulmoTerminal の共有アプリで作る、というやり方を扱います。
12 分で終わった障害
木曜の 14 時 2 分、アラートが鳴りました。
14:02 アラート
14:05 デプロイを疑う
14:11 直前のデプロイを戻した
14:14 復旧
12 分で終わった障害です。書いたのは対応した 2 人。
1 週間後、似たことが起きたときに、この 4 行を読み返します。読んだ人はこう思います。「前回は 3 分で原因が分かったのか」。
でもそれは違います。14 時 5 分の時点で「デプロイを疑う」は推測でした。結果的に当たっただけです。
MulmoTerminal は AI に頼んで作業させるための画面で、npx の 1 行で立ち上げてブラウザで開きます。道具自体は無料で、AI の使用量は自分の契約から引かれます。そこで作れる共有アプリは、リンクで人に渡せるアプリで、フォルダ 1 つがアプリ 1 つです。公開したあとは自分のパソコンが経路に入りません。
書き換えられると、この 4 行は嘘になる
もしこの記録が編集できたら、対応が終わったあとに誰かが直したくなります。14 時 5 分の行を「デプロイが原因と判明」に。そのほうが読みやすいからです。
直した瞬間に、最初から分かっていたように見えます。
次に似た障害が起きたとき、この記録を読む人は、原因の切り分けに 3 分かかるという前提で動きます。実際は推測が当たっただけなので、その前提は外れます。
時系列の記録の価値は、間違いも含めて残ることにあります。
AI に作らせるときに、ここを言い忘れる
障害対応の記録板を作って、と頼むと、たいてい編集できるものができます。そのほうが普通だからです。
編集できる記録板は、1 週間後に読めなくなります。誰かが整理して、経緯が消えているからです。
言うべきことは 1 つです。
あとから書き換えられないようにしたい
この一言で、追記しかできない形になります。
消せるのは、書いた本人の行だけ
まったく取り消せない、というわけではありません。誤って書いたものは、書いた人が消せます。でも他人の行は消せません。
この区別が効きます。自分の書き間違いは直せるけれど、議論の都合で誰かの発言を消すことはできない。訂正印を押すのは書いた人で、隣の人の行を消す権利は誰も持っていない、という考え方に近いと思います。
時刻はサーバーが打つ
複数の人が同時に書き込んでいるときに効く部分です。
書いた人のパソコンが時刻を打つと、そのパソコンの時計がずれていれば順序が狂います。障害対応では実害になります。14 時 11 分の対応が 14 時 5 分の行より前に並んだら、経緯が読めません。
共有アプリはサーバー側で時刻を打つので、全員が同じ 1 つの時計で記録されます。自分で気をつけることではありません。
向いているもの
- 引き継ぎ。夜勤から日勤へ、など。前の人の記述が消えないので、経緯が追えます
- 障害の時系列。上の例です
- 質問板。勉強会やイベントで「質問を書いてください」という板。質問が消えず、誰かの質問を勝手に直せず、答えも書き足せます
- チャット。発言を編集できるチャットは、あとから文脈が合わなくなります
社内向けなら、公開ページを作らない
不安の話でいうと、ここが一番大きいところです。
障害対応の記録には、システムの内部の話が入ります。どのサービスが落ちたか、どんな設定を間違えていたか。外に出したくない情報です。
公開ページを作らなければ、名簿に載せた人しか開けません。リンクを知られても開けません。
AI に作らせたものを公開するが、必ずインターネットに出すを意味するわけではないということです。
社内の引き継ぎはこの形が正しく、イベントの質問板は公開ページを作る、という使い分けになります。
長くなったときの読み方は、あとから決められる
追記しかできないので、行は増え続けます。読みにくくなったら、そのときに言えばいいです。
「日付ごとにまとめて表示して」「新しいものが上に来るようにして」「書いた人で絞り込めるようにして」。
これは見せ方の話なので、記録そのものには触りません。表示を変えて、過去の記録が壊れる心配はしなくていい部分です。元の記録には触らず、集計の紙だけを別に作る、というイメージです。
更新するものは、別のアプリに分ける
1 つ注意があります。
タスクの進行状況は更新されるものです。作業ログは書き足されるものです。
同じ作業についてのこの 2 つを 1 つのアプリに詰めると、読みにくくなります。別々に作ったほうが、それぞれ読みやすくなります。
フォルダを 2 つ作るだけなので、迷ったら分けるほうが素直です。
使ってみる
MulmoTerminal は、次の 1 行で立ち上がります。ターミナル(Windows なら PowerShell、Mac ならターミナル)を開いて、そのまま貼り付けます。
npx mulmoterminal@latest
ブラウザが開いて http://localhost:34567 が表示されれば成功です。インストールという作業はありません。npx はその場で取ってきて動かすだけなので、合わなければ閉じるだけで終わります。止めるときは、打ったターミナルで Ctrl + C を押します。そのターミナルが分からなくなったら npx mulmoterminal@latest stop です。
動かない場合、足りないものは次の 2 つのどちらかです。
| 確かめ方 | 無ければ | |
|---|---|---|
| Node.js 22.12 以上 | node -v |
nodejs.org/ja/download の LTS。入れたらターミナルを閉じて開き直す |
| Claude Code | claude --version |
macOS は curl -fsSL https://claude.ai/install.sh | bash、Windows は irm https://claude.ai/install.ps1 | iex。そのあと claude でログイン |
Claude Code は、AI をターミナルから使うためのコマンドです。使うには Claude の有料プラン(Pro / Max / Team / Enterprise)か API のアカウントが必要で、無料プランには含まれていません。MulmoTerminal 自体は無料で、AI の使用量はその契約から引かれます。
新しい空のフォルダを 1 つ作ります。デスクトップでいいです。名前は何でもかまいません。
MulmoTerminal の空いているマスをクリックして、上のタブで Claude を選び、WORKING DIRECTORY にそのフォルダのパスを入れて、右の再生ボタンを押します。

開いた画面に、欲しいものを普通の言葉で打ちます。
障害対応の記録板。時刻と、誰が書いたか、何をしたか・何が分かったかを書けるようにして。 あとから書き換えられないようにしたい。
書き換えられないようにが入っていれば、追記だけの形になります。
公開する前に自分で見ます。そのマスでコレクションのパネルを開いて、ヘッダーの Previews を押すと、公開サイトと同じものが動きます。
そこで次の 4 つを確かめます。データが出ているか。読み込み中で止まっていないか。送信すると確認が出て、入っている値が正しいか。わざと変な値を入れて、断られるか。そして仕上がって見えるか。
よければ「公開して」と頼みます。リンクが返ってきます。
2 行書いて、1 行目を直そうとしてみてください。直せなければ成功です。自分が書いた行を消すことはできます。
外に出したくないものなら、「公開ページは作らないで」と先に言っておきます。そうすると、名簿に載せた人しか開けません。
やめたくなったら、同じマスで「このアプリの公開をやめて」と頼みます。リンクが開けなくなります。集まったデータを消すなら「レコードを全部消して」と頼みます。消すと戻らないので、先に画面で中身を見て、必要なら書き出してから頼んでください。
まとめ
障害対応の時系列や引き継ぎのような記録は、あとから書き換えないほうが価値を持ちます。14 時 5 分の推測が推測のまま残っていることに意味があり、きれいに整理した瞬間に経緯が消えます。
AI に頼むときは、「あとから書き換えられないようにしたい」と一言足します。消せるのは書いた本人の行だけで、時刻はサーバー側が打つので、全員の時計がずれていても順序は狂いません。
