管制塔のレーダー画面には、一人の管制官が同時に扱える機数の上限があります。病棟の看護師には受け持ちの人数が決まっていて、学校の学級にも定員があります。
どれも、一人が同時に面倒を見られる相手の数には限りがある、という同じ前提から決まっています。数を増やすと、仕事そのものより「いま誰が自分を呼んでいるか」を把握するほうに時間が食われるからです。
この上限が、いま個人の机の上に降りてきています。
待ち時間を埋めようとして起きること
ターミナルで動く AI にまとまった作業を頼むと、1分から3分ほど待つことになります。ファイルを読んで、直して、テストを走らせているあいだ、こちらは画面を見ているだけです。
その時間に別のことを頼めばいい、というのは自然な発想で、実際うまくいきます。2つ同時ならターミナルを2枚開くだけで済みます。
4つになると、崩れます。
どれが終わったのか。どれが「このファイルを消していいですか」で止まっているのか。確かめるためにタブを順番にめくることになり、めくっているあいだに別のものが止まります。1周して戻ってきたときには状況が変わっているので、もう1周することになります。
3体に頼んで2分おきに見に行くと、用があるのは4回に1回くらいです。残りの3回は見に行って何もせずに戻ってきていて、そのたびに書きかけのメールの続きを思い出し直すことになります。
増えたのは作業量だけではありません。確認という作業が増えています。
見張らずに済ませる
管制塔がやっているのは、数を減らすことではありません。状態を画面に出して、見張らなくても分かるようにしています。
同じことを AI にもやれば、確認は要らなくなります。
MulmoTerminal は、そのための画面です。ターミナルで1行打つと立ち上がり、ブラウザで開くと格子が出ます。1つのマスが1体の AI で、これをセルと呼んでいます。無料で、オープンソースとして公開されています。
マスには状態が色で出ます。
青みがかった枠 考えている → 何もしない
琥珀色 答えを待っている → 答える
緑のリング 終わって未読 → 読む
枠なし 何もしていない → 次を頼む
拾うのは琥珀と緑の2つだけです。青は「今は用がない」という意味なので、見なくていい合図として働きます。視界の端に琥珀色が入れば、何枚目のマスかは分からなくても、誰かが待っていることは分かります。そこで初めて視線を送ればよいことになります。
音も鳴るので、画面を見ていなくても気づけます。
琥珀を先に拾う
琥珀と緑は、どちらも用がありますが、急ぎ方が違います。
琥珀は止まっています。答えるまで何も進みません。緑は終わっていて、放っておいても損はしません。読んで次を頼むまで、何もせずに待っています。
5枚が緑で1枚が琥珀なら、琥珀を先に片付けたほうが盤全体が速く進みます。緑を5枚読んでいるあいだ、琥珀の1枚は何も進んでいないからです。
1ページ9マス
置けるのは9マスまでで、あふれると次のページができます。
9が上限なのは、画面の都合ではありません。10枚目を同じページに詰めると全部が小さくなって、どれも読めなくなります。ページを分ければ、少なくとも見ているページの9枚は読める状態が保てます。
冒頭の管制塔や病棟と同じで、上限は「一目で見渡せるか」から決まっています。
並び順
9枚あると、どれを上に置くかが問題になります。並び順は3つから選べます。
呼んでいるマスが上に浮くもの。自分で並べるもの。プロジェクトが宣言した順に並べるもの。
既定は1つ目です。入力待ちのマスが勝手に上がってくるので、下のほうは見なくてよくなります。
1体に集中しても、残りが見える
長い出力を読みたいときは、そのマスを拡大します。画面を占有して大きく表示されます。
このとき、横に全部のマスの状況が1行ずつ並んだ一覧が出ます。フォルダ、そのマスが何をしているか、最後に頼んだこと、状態。拡大したまま、残り8体の様子が文字で追えます。
行をクリックすると拡大している相手が切り替わるので、9体を順に見ていく作業が9回のクリックで済みます。
何体動かせるかを決めているもの
10体並列で回せます、という話ではありません。
実際に効いてくるのは、同じ3体から5体を、記憶に頼らずに扱えるようになることのほうです。何体動かせるかを決めているのは AI の速さではなく、自分が確認に使う時間だからです。
冒頭の管制官の話と同じ構図で、上限そのものは変わりません。変わるのは、その上限まで使えるかどうかです。
使ってみる
MulmoTerminal は、次の1行を打つと立ち上がります。ターミナル(Windows なら PowerShell、Mac ならターミナル)を開いて、そのまま貼り付けます。
npx mulmoterminal@latest
ブラウザが開いて http://localhost:34567 が表示されれば成功です。インストールという作業はなく、合わなければ閉じるだけで終わります。止めるときは、打ったターミナルで Ctrl + C を押します。
動かない場合、足りないものは次の2つのどちらかです。
| 確かめ方 | 無い場合 | |
|---|---|---|
| Node.js 22.12 以上 | node -v |
nodejs.org/ja/download の LTS を入れ、ターミナルを開き直す |
| Claude Code | claude --version |
macOS は curl -fsSL https://claude.ai/install.sh | bash、Windows は irm https://claude.ai/install.ps1 | iex。そのあと claude でログイン |
Claude Code は、AI(Anthropic の Claude)をターミナルから使うためのコマンドです。MulmoTerminal は、これを何体も動かして見張る画面のほうを担当しています。使うには Claude の有料プラン(Pro / Max / Team / Enterprise)か API のアカウントが必要で、無料プランには含まれていません。MulmoTerminal 自体は無料で、AI の使用量はその契約から引かれます。
立ち上がると格子が出るので、空いているマスをクリックします。

上のタブで Claude を選び、WORKING DIRECTORY に作業したいフォルダのパスを入れて、右の再生ボタンを押します。自分のプロジェクトのフォルダでかまいません。
2体目は、そのマスのヘッダーにある + を押します。同じフォルダでもう1体立つので、毎回パスを打たずに済みます。
マスが2枚になって、片方が考えているあいだにもう片方へ打てれば動いています。色を確かめたいときは、片方に許可の要ることを頼んで、別のマスを見た状態で待ってください。見ているマスでは音が鳴らない作りなので、そこだけ注意します。
まとめ
一人が同時に面倒を見られる相手の数に限りがあるのは昔から知られていて、管制塔も病棟も学級もその前提で設計されています。AI を並列で動かすようになって、同じ上限が個人の机に降りてきました。
上限を超えるとき先に壊れるのは作業ではなく、いま誰が自分を呼んでいるかの把握のほうです。MulmoTerminal は、それを色と音に出して、見張らなくても分かるようにしています。
拾うのは琥珀と緑の2つだけで、止まっている琥珀を先に片付けると盤全体が速く進みます。
