沸いたかどうかを見に行く仕事を、笛が消した

沸いたかどうかを見に行く仕事を、笛が消した

台所でやかんを火にかけて、居間に戻ります。三分ほどで沸くはずですが、正確には分かりません。

見に行くと、まだです。戻ります。もう一度見に行くと、まだです。三度目に沸いていました。

やかんに笛を付けた人は、湯を早く沸かしたわけではありません。沸いたかどうかを見に行く、という仕事を消しただけです。それでも台所の仕事は目に見えて楽になりました。洗濯機のブザーも、電気ポットのランプも、踏切の音も、同じことをしています。

確かめに行くという仕事は、それ自体では何も生みません。

見に行って、何もせずに戻る

ターミナルで動く AI に作業を頼むと、一分から三分ほど待つことになります。待っているあいだに別のことも頼めるので、三体くらいまでは自然に増えます。

三体に頼んで、自分は別のウィンドウでメールを書いています。二分たったところで、もう終わっているかなと気になります。見に行くと、一体目は考え中、二体目も考え中、三体目は終わっていました。三体目に次を頼んで、メールに戻ります。

二分後、また気になります。見に行くと、今度は三体とも考え中でした。

これを繰り返していると、見に行った回数のうち用があったのは四回に一回くらいだと分かります。残りの三回は、何もせずに戻ってきています。しかも戻るたびに、書いていたメールの続きを思い出し直すことになります。

AI を何体も動かして増えたのは、作業量だけではありません。確認という仕事が増えています。

読まずに分かる合図

MulmoTerminal は、この確認をなくすための画面です。ターミナルで動く AI を何枚ものマスに並べて見張るもので、一マスが一体の AI にあたります。ブラウザで開くと格子が出ます。無料で、オープンソースとして公開されています。

やかんの笛と同じことをやります。見に行かなくても分かるようにする。

マスに英語で状態が書いてあっても足りません。九枚あれば九回読むことになるので、タブをめくるのと変わりません。読まずに分かるものが要ります。

色を使います。

見た目 意味 すること
青みがかった枠 考えている 何もしない
琥珀色 答えを待っている 答える
緑のリング 終わって未読 読む
枠なし 何もしていない 次を頼む

色は読まずに分かります。視界の端に琥珀色が入れば、何枚目のマスかは分からなくても、誰かが待っていることは分かります。そこで初めて視線を送ればよいことになります。

青は今は用がないという意味なので、見なくていい合図として働きます。さきほどの三体とも考え中という状態なら、視界に青しかないので見に行きません。

┌──────────────────┬──────────────────┬──────────────────┐
│ ⚠ acme-web       │ ● acme-api       │ ✓ notes          │
│                  │                  │                  │
│  琥珀色の枠      │  青みがかった枠  │  緑のリング+光  │
│  =止まっている  │  =考えている    │  =終わって未読  │
│                  │                  │                  │
│  → 答える        │  → 何もしない    │  → 読む          │
└──────────────────┴──────────────────┴──────────────────┘
      ↑ 先にこれ                              ↑ あとでいい

なお、琥珀色になるのは AI が止まったときです。AI は危ないことをする前に人に聞いて止まります。このコマンドを実行していいですか、という具合で、答えるまで一ミリも進みません。

琥珀を緑より先に拾う

琥珀と緑はどちらも用がありますが、急ぎ方が違います。

琥珀は止まっています。答えるまで何も進みません。緑は終わっていて、放っておいても損はしません。読んで次を頼むまで、何もせずに待っています。

五枚が緑で一枚が琥珀なら、琥珀を先に片付けたほうが盤全体が速く進みます。緑を五枚読んでいるあいだ、琥珀の一枚は何も進んでいないからです。

同じ状態が三か所に出る

見ている場所によって、同じ状態が別の形で出ます。格子を見ているときはマスの枠に、一体を拡大しているときは下に並ぶ小さい画面の点に、そして横に出る一覧の行に出ます。

緑は三か所すべてで緑です。一体を拡大して集中していても、横の一覧に緑の行が増えれば気づけます。

音は、見ているマスでは鳴らない

色だけでは、画面を見ていないときに気づけません。止まった瞬間には音も鳴ります。

音には一つ約束があって、いま見ているマスでは鳴りません。目の前で終わったものに音で知らせる意味がないからです。

一方でスマホへの通知は、見ているマスでも飛びます。こちらはパソコンが手元にない前提の機能なので、逆の判断になっています。

気づいたあと、中身はヘッダーで読む

用があると分かったあと、何が起きているかを読みます。マスのヘッダーは二段になっています。

上の段は見比べるための段です。状態の点、プロジェクトの名札、枝の名前と変更の数、使っているモデルと会話の量、いま何をしているか、自分で書けるメモ。九枚を横に並べて差を探すための段になっています。会話の量が一枚だけ大きい、変更の数が一枚だけ多い、というのがここで見えます。

下の段は読むための段と、操作です。フォルダのパス、実行、スキル、ファイルの挿入、AI がどの道具を呼んだかの履歴が並びます。

使ってみる

MulmoTerminal は、次の一行で立ち上がります。ターミナル(Windows なら PowerShell、Mac ならターミナル)を開いて、そのまま貼り付けます。

npx mulmoterminal@latest

ブラウザが開いて http://localhost:34567 が表示されれば成功です。インストールという作業はなく、合わなければ閉じるだけで終わります。止めるときは、打ったターミナルで Ctrl + C を押します。

動かない場合、足りないものは次の二つのどちらかです。

確かめ方 無ければ
Node.js 22.12 以上 node -v nodejs.org/ja/download の LTS。入れたらターミナルを閉じて開き直す
Claude Code claude --version macOS は curl -fsSL https://claude.ai/install.sh | bash、Windows は irm https://claude.ai/install.ps1 | iex。そのあと claude でログイン

Claude Code は、AI をターミナルから使うためのコマンドです。使うには Claude の有料プラン(Pro / Max / Team / Enterprise)か API のアカウントが必要で、無料プランには含まれていません。MulmoTerminal 自体は無料で、AI の使用量はその契約から引かれます。

色は設定なしで最初から効いているので、有効にする操作はありません。

確かめるには、空いているマスから AI を一体起動して、このフォルダのファイルを一覧して、そのあと一時ファイルを消していいか聞いて、と頼みます。そのうえで別のマスを見ている状態で待ちます。

琥珀色に光って、音が鳴ります。音が鳴らないときは、そのマスを見ています。見ているマスでは鳴らない仕様なので、別のマスをクリックしてから待ってください。

音がうるさいと思ったら、色は消せませんが音は種類ごとに切れます。設定の通知音の項目を開いて、止まったときだけ残すのが最初の一手です。終わったことは次に画面を見たときに分かるので、音で知る必要がありません。

まとめ

やかんの笛は湯を早く沸かしません。沸いたかを見に行く仕事を消しただけで、それでも台所は楽になりました。

AI を何体も動かすと、増えるのは作業量だけではなく確認の仕事です。見に行って何もせずに戻る回数が、思っているより多くなります。

MulmoTerminal は状態を色に出して、読まずに分かるようにしています。拾うのは琥珀と緑の二つだけで、止まっている琥珀を先に片付けると盤全体が速く進みます。

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