新聞の一面には、紙の大きさという変えられない条件があります。
一本の記事を長くすれば、載る本数が減ります。見出しを大きくすれば本文が削られます。写真を一枚入れると、記事が一本消えます。どれを長くしてどれを削るかを決めるのが編集の仕事で、紙のほうを大きくするという選択肢はありません。
時刻表も、地図の縮尺も、同じ制約の下にあります。詳しく載せるか、広く載せるか。両方は取れません。
これは読みやすさの問題ではなく、配分の問題です。
三行で切れている
ターミナルで動く AI を何体も並べて動かすとき、一体を拡大すると横に一覧が出ます。全部のマスを一行ずつ並べたもので、フォルダ、そのマスが何をしているか、最後に頼んだこと、状態が並びます。MulmoTerminal はそのための画面で、無料で、オープンソースとして公開されています。
三枚目の行に、そのマスが何をしているかが書いてあります。
認証ミドルウェアの順序を調整し、リクエストが…
そこで切れています。主語と述語の途中で切れているので、調整したのか、調整しようとして問題が出たのかが分かりません。
増やせばいい、で終わらない
行数を増やす設定はあります。ただ増やすと、同時に見える件数が減ります。
画面の高さは決まっているので、一件に六行使えば、九件並べると五十四行になります。一覧の高さを超えます。
これは読みやすさの設定ではなく、一件を読むか何件見るかの配分の設定です。ガイドにも、この打ち切りは不具合ではなくトレードオフだと書かれています。
新聞の一面と同じ場所に立っています。
三つのうち、上げる価値があるのは一つ
一行に三つの情報が入っています。そのマスが何をしているか、送ったプロンプト、AI の返答。
上げる価値があるのは、たいてい一つ目です。文章として書かれているので、途中で切れると一番困ります。
三つの性質が違います。
何をしているかは文章です。主語だけ読めて述語が切れると、意味が分かりません。送ったプロンプトは自分が書いたものなので、覚えていて冒頭で分かります。AI の返答は、冒頭だけ見えれば、続きを読みたければマスを見ます。
増やすなら一つ目だけになります。冒頭の場面がまさにそれです。
書き方
{ "cockpitLines": { "summary": 6, "prompt": 2, "response": 3 } }
設定画面のステッパーからも変えられます。既定は 2 と 2 と 3 です。
値の扱いに思想がある
細かいところですが、丁寧です。
範囲外の数値は 1 から 20 のあいだに丸められ、小数は四捨五入されます。50 と書いたら 20 になって、既定の 2 には戻りません。大きくしたいという意図は読めているので、できる範囲でやるという扱いです。
数値でないものを書いたときは、その項目だけ既定に戻ります。一つの書き間違いが他の二つを巻き添えにしません。
フォントの設定とは、逆の判断になっている
面白いのは、フォントの設定では逆だということです。フォントの並びは、一か所壊れると全体が破棄されます。
違いは、一つの意図なのか、三つの独立した値なのかです。フォントの並びは全体で一つの意図を表していて、ここは三つの別々の数字です。
同じ道具の中で、値の性質によって扱いを変えているのがきれいなところです。
実は、設定しなくても全文が読める
これを知ると、設定の必要性が下がります。
打ち切られていても、行にマウスを乗せれば全文が読めます。行数を上げるのはホバーの手間を省く話で、長い文章を読む唯一の手段ではありません。
既定のままでも、情報は失われていません。判断はホバーする回数で決まります。一日に何度も同じマスの行をホバーしているなら上げる。たまにしか見ないなら既定でいい。
プロジェクトごとにはできない
これは制約というより、そうすべきでない理由があります。
一覧は複数のフォルダのマスを混ぜて並べています。九枚が混ざって縦に並んでいるので、フォルダごとに高さを変えると、隣り合う行で高さの根拠が食い違います。一行目が六行、二行目が二行、三行目が六行という並びになると、リズムが崩れて読めなくなります。
色やフォントはプロジェクトごとに変えられるのに、これは変えられません。その違いは、隣と比べるものかどうかです。新聞の段組みが記事ごとに変わらないのと同じ理由です。
使ってみる
MulmoTerminal は、次の一行で立ち上がります。ターミナル(Windows なら PowerShell、Mac ならターミナル)を開いて、そのまま貼り付けます。
npx mulmoterminal@latest
ブラウザが開いて http://localhost:34567 が表示されれば成功です。インストールという作業はなく、合わなければ閉じるだけで終わります。止めるときは、打ったターミナルで Ctrl + C を押します。
動かない場合、足りないものは次の二つのどちらかです。
| 確かめ方 | 無ければ | |
|---|---|---|
| Node.js 22.12 以上 | node -v |
nodejs.org/ja/download の LTS。入れたらターミナルを閉じて開き直す |
| Claude Code | claude --version |
macOS は curl -fsSL https://claude.ai/install.sh | bash、Windows は irm https://claude.ai/install.ps1 | iex。そのあと claude でログイン |
Claude Code は、AI をターミナルから使うためのコマンドです。使うには Claude の有料プラン(Pro / Max / Team / Enterprise)か API のアカウントが必要で、無料プランには含まれていません。MulmoTerminal 自体は無料で、AI の使用量はその契約から引かれます。
書く場所は ~/.mulmoterminal/config.json です。無ければ作ります。設定画面の Waiting rows からでも変えられます。
{
"cockpitLines": { "summary": 6, "prompt": 2, "response": 3 }
}
書いたらタブを再読み込みします。拡大したときの一覧で、一行目が長く読めるようになれば成功です。その分、同時に見える件数は減ります。
summary を 6 にすると、冒頭の行はこう出ます。
認証ミドルウェアの順序を調整し、リクエストがセッションの検証より前に ログ記録を通るようにした。既存のテストは3件失敗したので、 そちらを確認中。
確認中まで読めます。同時に見える件数は、九件から五件くらいに減ります。
やめるときは、その項目を消せば既定に戻ります。そもそも行にマウスを乗せれば全文が読めるので、設定しないという選択もあります。
まとめ
新聞の一面は紙の大きさが決まっているので、一本を長くすれば本数が減ります。詳しく載せるか広く載せるかを決めるのが編集の仕事で、両方は取れません。
一覧の行が途中で切れているのも同じ配分です。増やせば読めますが、同時に見える件数が減ります。上げる価値があるのは、文章として書かれている一つ目だけです。
そして行にマウスを乗せれば全文が読めるので、決めるのは読めるかどうかではなく、ホバーを何回するかです。
