山小屋のノートは、消さないから次の人の役に立つ

山小屋のノートは、消さないから次の人の役に立つ

山小屋の土間には、たいていノートが置いてあります。

書いてあるのは日付と天気と、通ってきた道の様子です。沢が増水していた、標識が倒れていた、上の小屋はもう閉まっていた。書いた人はもう下山していて、二度と来ないかもしれません。

そのノートに、消しゴムを使う人はいません。前の人の記述が間違っていたときも、消さずに下に足します。書いた順がそのまま残っているので、いつの情報なのかが分かります。

そして書き込むのは登山者だけではありません。管理人が補給の日を書き、季節の初めには役所の人が注意を貼ります。同じノートに、立場の違うものが並びます。

消さないことと、誰でも足せること。この二つで、ノートは通り過ぎる人より長生きします。

翌朝、結論を思い出せない

ターミナルで動く AI に、Claude と Codex でデータの持ち方について議論させました。MulmoTerminal は AI を何枚ものマスに並べて見張るための画面で、一マスが一体の AI にあたります。無料で、オープンソースとして公開されています。

六往復して、結論が出ました。この形にして、理由はこれ。読んで納得して、次の作業に移ります。

翌朝、その結論を思い出せません。タブを閉じたので、議論はもう画面にありません。残っているのは、たしか片方が反対していたという記憶だけです。

もう一回やればいいは、お金がかかる

もう一度議論させれば、また結論が出ます。ただし一往復が本物のやりとり一回分なので、六往復させれば六回分の使用量がかかります。

しかも前回と同じ結論になるとは限りません。記録が無いので、前回何を検討したかを知らないまま始まります。

同じ議論を二回して、違う答えが出る。これが一番困ります。

会話を、画面から切り離して持つ

MulmoTerminal では、議論の内容が画面とは別のところに残ります。

ファイル一つで、行を足すことしかできません。書き換えも削除もしないので、書かれた順がそのまま残ります。山小屋のノートと同じ性質です。

これで二つのことが可能になります。会話がタブより長生きします。そして、AI ではないものも参加できます。

名前を付けると、続きから話せる

議論を始めるときに、名前を書く欄があります。

空にすると、新しい記録ができます。名前を書くと、その名前の記録で話します。すでにあれば、その続きになります。

すでにある記録を指定すると、参加する AI は過去のやりとりを読んでから喋ります。また同じ議題をやるは、同じ名前で始めるだけです。前回何を話したかを貼り直す必要がありません。

翌朝思い出せないは、これで解決します。名前を付けておけば、開いて読めばいい。

不正な名前は、黙って別のものにしない

名前に使えるのは、英小文字と数字とハイフンです。それ以外は黙って新しい記録に置き換えたりせず、断ります。

これは大事な作りです。黙って新しい記録が作られると、前回の会話が読まれないまま議論が始まって、しかもそれに気づけません。なぜか前回の話を覚えていないという状態になります。

断られれば打ち直せます。

人が、外から割り込める

議論の記録は、画面から読めます。下に自分で書き込む欄があります。

これはおまけではありません。AI は打ち込まれるだけで何も呼べないので、人間は外から会話に入るしかない、という構造になっています。

書いたものは、次に喋る AI が読む範囲に入ります。議論の途中で、その前提は違うと割り込めます。

AI 同士が間違った前提で盛り上がっているのを黙って見ているしかない、という状態にはなりません。

テストの結果を、議論に持ち込める

ここが使い方の勘所です。

テストは議論に参加できません。AI のマスではないので。でも記録には書き込めます。

mulmoterminal room post release-check --from ci "build failed: 3 type errors in src/api"

次にその議題で議論を始めると、参加する AI はこの投稿を読んでから喋ります。テストが何と言ったかを、人が貼り直さずに議論に入るということです。

山小屋のノートに、管理人が補給の日を書くのと同じ形です。

コマンドの書き方には一つ気が利いた点があって、-- のあとは全部本文になるので、フラグのような文字列を含む投稿でも壊れません。

認証はない。だから閉じた場所で使う

正直に書かれている制約です。

書き込むときの名前は表示名であって、認証ではありません。そして記録は、このパソコンから届く者なら誰でも書き込めます。

ここが安全側の注意に繋がります。記録の中身は、次に喋る AI のプロンプトに普通のテキストとして入ります。これはデータであって指示ではないという枠に入れて渡されますが、これは緩和策で、絶対の境界ではありません。

記録は信頼できる入力として扱ってください。自分と自分のテストだけが書き込む場所にしておく、ということです。外から書き込める仕組みを作らないほうがいい部分です。

溜まるので、消す手段がある

名前を空にして始めると、毎回新しい記録ができます。名前を付けない限り、一回の議論につき一つ増えます。

各記録の横にゴミ箱があるので、削除できます。

溜めたくないなら名前を付けるのが答えになります。名前を付けた記録は再利用されるので、何度議論しても一つに追記されていきます。

使ってみる

MulmoTerminal は、次の一行で立ち上がります。ターミナル(Windows なら PowerShell、Mac ならターミナル)を開いて、そのまま貼り付けます。

npx mulmoterminal@latest

ブラウザが開いて http://localhost:34567 が表示されれば成功です。インストールという作業はなく、合わなければ閉じるだけで終わります。止めるときは、打ったターミナルで Ctrl + C を押します。

動かない場合、足りないものは次の二つのどちらかです。

確かめ方 無ければ
Node.js 22.12 以上 node -v nodejs.org/ja/download の LTS。入れたらターミナルを閉じて開き直す
Claude Code claude --version macOS は curl -fsSL https://claude.ai/install.sh | bash、Windows は irm https://claude.ai/install.ps1 | iex。そのあと claude でログイン

Claude Code は、AI をターミナルから使うためのコマンドです。使うには Claude の有料プラン(Pro / Max / Team / Enterprise)か API のアカウントが必要で、無料プランには含まれていません。MulmoTerminal 自体は無料で、AI の使用量はその契約から引かれます。

議論を始めるときに、名前を一つ書くだけです。

議論を始めるマスの forum ボタンを押して、room の欄に名前を書きます。英小文字と数字とハイフンで、たとえば data-model です。そして Start。

次に同じ議題をやるときは、同じ名前で始めるだけです。参加する AI は、過去のやりとりを読んでから喋ります。

ツールバーの Rooms を開くと、左に記録の一覧、右に発言が出ます。閉じたタブの議論がそこに残っていれば成功です。

Rooms の画面の下に書き込む欄があります。書いたものは、次に喋る AI が読む範囲に入るので、AI 同士が間違った前提で進んでいるときに外から直せます。

テストの結果を持ち込むときは、さきほどのコマンドを使います。認証はありません。--from は表示名です。記録はこのパソコンから届く者なら誰でも書き込めて、その中身は次に喋る AI のプロンプトに普通のテキストとして入ります。自分と自分のテストだけが書き込む場所にしておいてください。

やめるときは、Rooms でその記録の横のゴミ箱を押します。名前を付けずに始めた議論は毎回一つ増えるので、この削除はそのためにあります。

まとめ

山小屋のノートは、誰も消さないので書かれた順がそのまま残り、誰でも足せるので登山者も管理人も同じ紙に書きます。だから通り過ぎる人より長生きします。

AI 同士の議論も、画面から切り離して行を足すだけのファイルに残すと、タブを閉じても消えません。名前を付けておけば、次は続きから話せます。

そして AI ではないものも書き込めるので、テストの結果を人が貼り直さずに議論に入れられます。ただし認証はないので、書き込む先は自分と自分のテストだけにしておきます。

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