課題:先週決めたことを、新しい会話は知らない
先週、AI に聞かれました。「テストは vitest にしますか、node:test にしますか」。答えました。
今週、別のタスクで新しいセルを立てたら、また聞かれました。
来週も聞かれます。
AI との会話は閉じると終わって、次は新しい会話から始まります。前の会話で決めたことを、次の会話は知りません。人間なら覚えていることが、新しいセッションからは見えません。
MulmoTerminal で 9 枚のセルを並列に動かしていると、この「同じ質問が繰り返される」頻度が線形に増えます。
既存の回避策とそのコスト
プロジェクトのメモに書いておく
README.md や AGENTS.md に「テストは vitest」と書いておけばいい。実際やってみると、続きません。
- 決めた瞬間は、メモを開く気になりません(あとでまた聞かれるものだと分からないので)
- 三回目に聞かれたときに、前も聞かれたと気づきます
- そこから書き始めても、過去二回分の情報は残っていません
CLAUDE.md に手で書き足す
書けば効きます。読まれる場所にあるので。問題は何を書くかです。「テストは vitest を使う」まで書いても、「エラー処理は結果型」も「ログは pino」も「i18n は vue-i18n」もすべて自分で書き起こすことになります。会議を自分でメモするのと同じで、始めても続きません。
MulmoTerminal の解決:聞かれた質問を自動で貯めて、スキル経由で読ませる
~/.mulmoterminal/config.json に一行書きます。
{ "decisionDigest": true }
設定 → Sessions and background tasks のチェックボックスでも同じキーが書かれます。
有効にすると:
- このマシンのセッションが実際に人に聞いた質問と、どれが選ばれたかを拾う
~/.mulmoterminal/decisions/<project>.mdに Markdown でまとめる — リポジトリの中には書かない- 新しい会話は、同梱スキル
mulmoterminal-decisions経由でこれを読む
書き出し先がプロジェクトの中ではないのは意図的です。誰が何を答えたかはそのマシンの持ち主の履歴なので、チームで共有するものではありません。
事実だけ書いて、傾向は書かない
ここが一番考えられている部分です。中身は日付つきの事実だけで、推論した規則は書きません。
書くのは:
## 2026-10-03
Q. テストは vitest と node:test のどちらにしますか?
1. vitest — 既存の設定を使える
2. node:test — 依存が増えない
A. 1(vitest)
書かないのは:
この人は依存を増やしたくない傾向がある
理由が明快で、「この人はいつも推奨案を選ぶ」のたぐいはそれらしく読めてしまううえに間違っていることがあり、間違った学習が黙って効くのが一番まずいからです。
これは実感と合います。推論した規則が記録に入ると、AI はそれを前提に動き始めます。聞き直さないので、間違っていることに気づけません。気づくのは、間違った前提で作られたものを見たときです。
事実だけ渡せば、判断はその場でされます。間違った前提が固定されません。読む側のスキルにも「これは事実の記録で規則ではない」と明記されています。議事録に人柄を書かないのと同じ線引きです。
選択肢を選ばなかった答えに、むしろ価値がある
もう一つ鋭い点があります。どの選択肢も選ばず自分で書いた回答も残します。
## 2026-10-08
Q. エラーの扱いは 3 案のどれにしますか?
1. 例外を投げる / 2. 結果型を返す / 3. ログだけ出す
A. 選択肢以外:「呼び出し側で決められるように両方出して」
むしろこちらが読む価値のある記録です。質問そのものが的を外していたという事実なので。
A か B かと聞かれて C と答えたとき、記録すべきなのは「C が選ばれた」ではなく「A も B も的を外していた」という情報です。次に同じ領域で質問を組み立てるとき、これを読んでいれば選択肢の作り方が変わります。
スキルとして読むので、毎回のコストにならない
読み方も工夫されています。会話の最初に埋め込むのではなく、Claude Code の スキル として読みます。スキルは、AI が必要だと判断したときだけ ~/.claude/skills/<slug>/ を読みに行く仕組みです。
だから、必要なときだけ読まれて、毎回のやりとりには乗りません。「これは前に聞いたかもしれない」と AI が判断したときに読みます。
記録が長くなっても、毎回の使用量が増えません。決定の記録は貯まるほど長くなるので、毎回渡していたらそのまま使用量に跳ね返ります。
更新は 6 時間ごと
貯めるのは、サーバ起動時と6 時間ごと。対象はこのホストが実際に作業しているディレクトリだけです。
質問はそんなに頻繁に起きないので、一日 4 回まとめ直せば朝に決めたことは昼の会話が読めます。即時でないのは、まとめる処理が会話記録を走査するもので、質問一つごとに走らせるほどの価値がないからです。
既定で OFF
既定は切ってあります。マニュアルに「vision 段階のアイデア」と明記されていて、放っておけば存在しないファイルを書く(=使わない人のマシンに記録用のフォルダが増える)のを避けるためです。
「使わない機能がファイルを作らない」原則が守られているのは、AI ツールが乱立する時代には地味に効きます。入れただけで勝手に何かが書かれるのは不信感に繋がるので。
使ってみる
既存の MulmoTerminal インストールがあれば、decisionDigest は追加のインストールなしで動きます。初めての方は MulmoTerminal 完全ガイド の「使い方 3 ステップ」から。
動作確認の最小シナリオ
- 設定 → Sessions and background tasks で decision digest をオン(または
~/.mulmoterminal/config.jsonに{ "decisionDigest": true }を書いて再起動) - 普段どおり作業し、AI の質問に矢印キーで答える
- 翌日(または 6 時間後)、
~/.mulmoterminal/decisions/<project>.mdにファイルができていれば成功 - そのプロジェクトで新しいセッションを開き、以前答えたのと似た領域の作業を頼む
- 同じ質問をせずに進んだら効いています
やめるときは false にして、~/.mulmoterminal/decisions/ のフォルダを削除します。
まとめ
- AI の会話は閉じると終わるので、同じ質問が三週間で四回来る
decisionDigestは実際に人に聞いた質問と答えを Markdown にまとめ、スキル経由で次の会話に読ませる- 日付つきの事実だけを書き、推論した規則は書かない(間違った学習が黙って効くのを避ける)
- どの選択肢も選ばなかった回答が、むしろ一番価値のある記録
- 書き出し先は
~/.mulmoterminal/decisions/(リポジトリの中ではない) - スキル経由で読むので、毎回のやりとりの使用量は増えない
関連: MulmoTerminal 公式ガイドの decisionDigest / MulmoTerminal の worktree 隔離 / MulmoTerminal の addDirs で隣のリポジトリも読ませる

