財政出前講座 SIM2030

講師:今村さん(福岡市役所の職員。通称スーパー公務員)


このレポートは 2018/11/10 に尾張旭市で行われた財政出前講座SIM2030に参加して得られた知識のなかで、ポイントのみ共有するものです。今後、シンギュラリティ・ソサエティのPolitech活動を行う上での基本知識の一つになると思います。


予算は何百億円あっても足りない?

講座参加前に予習のため、自分の住んでいる市(千葉県四街道市)の予算決算の資料を見てみました。

四街道市 平成29年度決算

歳入、再出も400億ちょっとです。 ふ~ん。で、これってどういう状態? よくわかりません。この講座に参加すると、上のような資料から、自分の市の財政のヤバさを読み取れるようになります。

予算の見方:
日本だとどこの自治体でも、予算はまず一般財源と特定財源に分かれています。特定財源とは、使い道が決まっている自由にできないお金です。

例えば、会社からの給与振込で、たまにやけに額面が増えたな、と思って確認してみると定期代だったりして、見た目は嬉しくても、実質的に何のプラスにもなっていないというのと同じですね。引き続き四街道の例でいうと、一般財源だけみるとこの時点で2/3 - 半分になってしまいます。

さらにここから公債費(地方債の返還)、扶助費(社会保障)、人件費(職員費)など、ほぼ絶対に払わなければならず、かつ工夫できないお金が出ていくと、さらに半分程度がとられます。特に公債費と扶助費は、全国的に今後インフラの老朽化と高齢化で増えていく傾向があるため、要チェックということです。さらに物件費や建設(公共工事)費などを足し、いろいろ払わなければならないお金を合算して経常的経費が出てきます。それを一般財源から引いて初めて、自由に使い道を考えられるのか政策的経費が出てくるのです。

四街道では、経常的経費がなんと平成28年で99.7% 平成29年で97.4%でした。それぞれ見た目400億円のうち、平成28年などは5000万円しか自由に使い道を考えるお金がないということになります。なるほど、、お金ないな、、と実感しました。

ちなみに県自治体の平均経常的経費の比率はは90%くらいということなので、県の中でも自由に使えるお金が少ない市ということがわかります。

経常収支比率

えっ、市の収入って増えないの?

お金がないなら、増やせばいいじゃないかということで、企業を誘致して税金をたくさん納めてもらえば解決かというと、そう単純にはいかないようなのです。

地方交付税という国の仕組みが良くも悪くも入っていて、景気が悪くて税収がへると、国が補填してくれて自治体が倒産しないですむ反面、景気が良くなり、地方の税収が増えた場合は、地方交付税が減らされるので、結局自由に使える一般財源の総額は毎年そんなに変わらないということです。(きつねにつままれたような気分になるロジックです。この仕組みは日本全体で見ると国の予算自体が赤字なので、たぶん限界が近いと思われます)

お金がない、簡単に増えないのはわかったとして、そもそも何のためにお金がほしいかです。小さい政府のほうがよいという考え方なら、別にかつかつでもいいのではないかという意見もあります。

今回のSIM2030で学んだことは、以下の公式です。

何か新しいことを行政がやるとしたらお金がかかる

何をどのくらい行政がやるべきかということは、人それぞれ意見が異なると思います。ただ、現状どこの自治体も余裕がないとすると、上の公式はどこでもあてはまるようです。

SIM2030では、参加者が色々な局長になりきって市長の新しい政策を実行するために、自分の所管する事業を打ち切るかどうか判断し、ミニ議会で説明しなければいけません。

未来を決めるのは誰だ?

各自治体には色々なマスタープランがあって、それは市民、専門家が集まって作った10年後のこんな街にしたい、という思いをまとめたものです。マスタープランは議会で議決されています。現実とのギャップがかかれている以上、その未来に近づけるにはお金がかかります。

今のままでよいのか、いまやっていることをやめてでも未来のためにお金をつかうのか。

案を作るのが市長(と自治体職員)、決めるのは議員です。両方ともに選挙で選んでいるはずです。

さらに国の政策よりも、自治体の政策は馴染み深いものばかりです。いろいろ委員会なども募集されていて、選挙以外にも意思決定に参加する方法がとりやすいというメリットがあります。地方自治は民主主義の学校という言葉があるとおり、市町村こそ自分たちの頭で自分たちの未来を決められると考えられます。

ただ、残念ながら選挙のときに、街の財政の全体が見えていないために、どの候補を選んだらどの政策に賛成しやすくてその結果何をやめるということにつながるのだろう、ということが見えません。政治は予算の再分配が仕事だというのに、個別に立候補の候補者が並べた政策に気に入った文言が入っているかどうか、もっというと、顔や性別で投票していることが多くあると思います。

「政治」は嫌い、「自治」は好き

(この段落は講座の内容ではなく、個人的な意見です)

私は、明確な理由なく物事が決まる、いわゆるカッコつきの「政治」とよばれるものが嫌いです。人が決めたものをあとから文句だけをいうのも嫌いです。せっかく手が届くところにある自分たちの街の未来、自分たちの子どもたちが長時間すごすことになる街の未来は自分たちで議論して決めたいです。決めるためには何かを選んだときに全体がどうなっていくのか想定した上で決めることが重要になってます。そこが今までは普通の人にはなかなか難しく、フィーリングで選挙を行なってしまっていた原因だと思います。

そして、この壁こそ、技術と仕組みで打破できる可能性があると感じているところです。

新しく必要とされる政策の効果や予算規模、既存で行っている政策の効果や予算規模、今までの言動からの各候補者が賛成、反対する確率。それらを組み合わせればどの候補が当選した場合はどの事業が採用、どの事業が廃止されてその結果市の将来はこのような特徴が出てくるとということがシミュレートできそうです。

そのシミュレートがだれでも簡単にできれば、より自分が創りたい未来に貢献する候補に投票できます。また、そもそも自分のまちをどんな街にしたいと思っているんだっけということを、シミュレーション結果をみてから逆に考えてみることも可能になります。

そんな政治と技術の接点のことを具体的に考えさせてくれる要素が詰まった講義でした。

最後にチームメンバーと記念撮影(他のメンバは顔出し確認できていないので切っちゃってます)参加者は市民よりいろいろな市の職員さんが多かったです。普段なかなか話せない裏側の気持ちも聞くことができました。

講師、今村さんの本が出ました!

上で書いたことは講座のごく一部ですが、その内容が最近(2018/12月)書籍として出版されました!講座に出たのと同じ内容をじっくり読むことができるのでおすすめします。(ただし、SIM2030は近くでやっているものを探して参加したほうが断然面白いです)

財政出前講座、SIM2030の参考情報
https://www.jiam.jp/melmaga/bunken/newcontents132.html

財政出前講座とは

「出前講座」という名前は、福岡市の場合は市民に対して出前する出前講座という仕組みがあって、各所属が市民向けにお話しできるメニューをつくって、広聴課に置いたりしているのですけれども、こっちのほうは市民から福岡市の財政のことを知りたいという出前の注文は全然来ないのですけれども、職員向けの出前講座は、1回やって、「こんなことをやりました」というのを私が職員用の掲示板に記事を上げたら、結構いろいろなところから、「どうやったら来てもらえるのですか」という問い合わせがありました。

最初の年は、全部、組織の仕事じゃなくて、今村個人が請け負っているという形でやっていました。でも、だんだん拡大してきたので、25年度からは「財政調整課として、これをやります、やっています」と、職務のミッションとして掲げるようになり、24、25、26、27で4年目になっています。基本スタイルは、呼ぶ人が会場を抑える。呼ぶ人が人を集める。呼ぶ人がレポートを書いて、掲示板に上げるというスタンスですね。呼ぶ人がレポートを書いて上げるというのがみそで「今村課長が来てくれて、こんな話をしてくれました。面白かったです」と、みんな書いてくれるのですよ。

基本的には職員を対象にやっています。そうやってお話をすると「財政のことが少し分かったから、自分の職場で何かできないかな」といった声を聞きます。あと、うちは枠予算という仕組みでやっており、枠配分で配分された少ない枠を自分たちで考えて最大効率化するという仕組みを持っているので、「あとは、枠予算の中でしっかり考えてください」と終わることができ、すごく好評です。3年間で、枠予算の仕組みを使って本当に行革も進んできているし、みんなの意識も高まってきています。

他の自治体でも声がかかって、福岡市では福岡市の職員に対して福岡市の財政課長がこんな話をしているというのを、そのまま見せたんですよ。そうしたら、財政にまつわる悩みというのは、どこの自治体でもあまり変わらなくて、私が話している財政構造の話もほとんど変わらないんですよね。「扶助費が伸びて、アセットマネジメント経費が伸びて、義務的経費が増えるから、投資的経費が減ります」みたいな。

SIM2030とは

「SIM2030」は、簡単に言うと予算編成ゲームです。自治体の予算編成の仕組みはご存じかと思いますけれども、財源があって、その財源の中に事業をはめなければいけないのです。

簡単に言うと、事業カードというのが何枚かあって、私たちが今やっているのは、10数枚の事業カードが配られていて、あるイベントがあって、イベントのために何かをしなければいけない、新しく財源をつくらなければいけない。そのためには、このカードを1枚切って事業をやめなければいけない。既存事業の中の何をやめますか?それが1枚だったり、あるいは税収が減ったり、社会保障費が増えるという前提条件で3枚カードを切らないといけない。そういうのを幾つかの年代ごとにやります。

これを「SIM2030」というのは、熊本で最初につくられたときは、2015、2020、2025、2030と4ステージあって、4ステージのそれぞれで3枚ずつカードを抜いていくというゲームになっているからです。

そのゲームの中で、限られたものの中から選び取り、その説明を果たしていく、あるいは、選び取る作業をみんなで話して決めるということを学んでいくゲームなのです。

それを一人で持ち運びができるゲームになるよう考えて、査定官は隣の班同士で入れ替えてやるという形式にし、メインのファシリテーターが一人いたら全部できる簡易版にしたものが出前講座のSIM2030です。

もともとのSIM2030

もともとは熊本県庁の人が開発しました。まず、メインのファシリテーターがいます。あとは、6人1チームで一つの自治体、仮想自治体なのですが、そこが制限時間内に議論をして結論を出します。そして、この各仮想自治体の出した結論、予算案を査定をする人たちがいます。

われわれは議会役とか査定官と呼んでいますけれども、チームの外から見て「その査定案は妥当か」といったことを審議するという立て付けなので、班の数が多いとこの議会役、査定官がたくさん要るのです。しかも、査定官は、このゲームの経験者でないとできないので、「今度、大阪でこれをやりたいんですけれども」と言われても、「うちから5人行きます」ということがなかなか難しい。

(参照)すでに開催された他のイベントの募集説明

「SIMふくおか2030」では、参加者の皆さんが全員なにがしかの仮想都市の関係者に扮し、未来の起こりうる様々な課題に対してどう対応し、予算配分していくかをゲームを通して体験することで、知識を実感できる場として学び深めます。

お役所が扱うお金について、それぞれが担当を持ってああでもないこうでもないと、何にお金を使い、何をやめるかを話し合い、お金の流れと時代の流れを体験してみる会です。出前講座では、そのための予備知識もちゃんと手に入るよう準備されています。


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