Elon Musk のビジョン

最近、Tesla のことを書く機会が増えましたが、Tesla のことを理解するには、「Tesla が何のために存在し、何を実現しようとしているか」という根本の部分にまで踏み込む必要があります。

Tesla は、2006年に「The Secret Tesla Motors Master Plan (just between you and me)」というタイトルのドキュメントを公開しました。まさに、「Tesla という会社が何のために存在し、Tesla が何をやろうとしているか」を、社内外に向けて発信した、後に「Master Plan, Part I」と呼ばれるようになったドキュメントです。

このドキュメントの最後には、まとめとして以下の4つの項目が書かれています。

  1. Build sports car
  2. Use that money to build an affordable car
  3. Use that money to build an even more affordable car
  4. While doing above, also provide zero emission electric power generation options

1は Road Star のことです。そして、それで稼いだお金で作った車が2の Model S と X です。そして、今年になり、ようやく3の Model 3 を発売したのです。4は、Solar City の買収によってすでに実現しています。

ちょうど11年経ちますが、驚くほどに予定通りに進んでいることが分かります。11年というのはとても長い期間です、Elon Musk というリーダーが、いかに明確なビジョンを持ち、ぶれずに、ゴールに向かって真っしぐらに進んで来たかが良く分かります。

Tesla は、ちょうど10年後に2016年に「Master Plan, Part Deux」 というドキュメントを公開しています。そこには、

  1. Create stunning solar roofs with seamlessly integrated battery storage
  2. Expand the electric vehicle product line to address all major segments
  3. Develop a self-driving capability that is 10X safer than manual via massive fleet learning
  4. Enable your car to make money for you when you aren’t using it

と書かれています。

1は、屋根瓦と一体型の太陽光パネルと、蓄電装置で、すでに出荷が始まっています。2は、Model 3 に加えて、今後、(小型 SUV の)Model Y、ピックアップトラック、コンボイトラックなどを揃えることを示しています。

3は、AutoPilot 機能を「人が運転するよりも10倍安全な」レベルにまで進化させることを宣言しています。「人が運転するよりも安全」というメッセージは、自動運転を開発する上では結構重要な話で、ここを重視すれば自動運転に際してありがちなジレンマ(運転手と歩行者のどちらの命を守るべきかなど)も乗り越えられると思います。

4は、Tesla 自身が自動車のシェアリング・サービスに乗り出すことを宣言しています。「自分が使っていない間に稼ぐことができる」とは、本格的な自動運転が可能になれば、自動車自身が Uber のようなサービスを勝手にして稼いでくれる、とも解釈できますが、その実現はかなり先のことになると思います。その手前で、もう少し簡単な、ネットワーク型のレンタカーサービスのようなものから始める可能性が高いと思います。

Part I と同じく、明確なゴール設定をすることにより、株主や従業員に明確なメッセージを送るだけでなく、「なぜ Tesla の製品を買うべきか」という、(Apple が得意な)消費者心理の「Why」の部分に強く訴えかけている点が注目に値します。

Tesla は、Model 3 のローンチと同時に、専用のウェブページを立ち上げましたが、そのタグラインは、「Model 3 Is Designed For A Visionary Like You」という、いかにもアーリー・アダプター向けのもので、ここにも Tesla と Apple のマーケティング戦略の類似点が見られます。


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