「まずは顧客にヒアリングしよう」「カスタマージャーニーを描こう」──
新規事業やスタートアップの世界では、いまや常識となったアプローチです。
確かにそれは、既存顧客のニーズをよりよく満たす連続的(持続的)イノベーションにおいては有効です。しかし歴史を振り返ると、本当に世の中を変えたサービスは、顧客に聞いても決して生まれなかったのです。
「欲しいですか?」と聞かれても、誰も欲しいとは言わなかった
たとえば次のような問いに、あなたは「欲しい」と答えられるでしょうか。
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「知らない他人の家に泊まりたいですか?」
→ Airbnb
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「知らない人の車に乗りたいですか?」
→ Uber
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「すぐ剥がれるテープが欲しいですか?」
→ ポスト・イット(3M)
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「再生しかできないカセットプレイヤーが欲しいですか?」
→ Sony Walkman
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「ボタンのない携帯電話が欲しいですか?」
→ iPhone(Apple)
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「CDドライブがないパソコンが欲しいですか?」
→ MacBook Air
どれも当時の常識では「不便・危険・意味がない」と思われていました。
顧客にアンケートを取っていたら、99%が「いらない」と答えたでしょう。
それでも、いまやこれらは世界中で当たり前に使われています。
なぜ顧客調査からは出てこないのか
破壊的イノベーションが顧客調査からは生まれない理由は、実はとても単純です。
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顧客は「いまの延長線」しか想像できない
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既存価値(安全・便利・安い)に最適化されており、新しい基準を受け入れられない
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実際に触れてみるまで価値が伝わらない人は見たことのないものを欲しがれないのです。
「異端者の直感」から始まり、「翻訳」されて広がる
これらを生み出した創業者たちは、顧客の声ではなく、自分自身の違和感や執念を起点にしていました。
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Airbnb:家賃を払えず、自分たちの部屋を観光客に貸した
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Uber:大雨でタクシーがつかまらず、友人同士で相乗りアプリをつくった
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3M:失敗作の糊を「貼って剥がせる付箋」にできると信じた
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Apple:キーボードを外して指で操作する未来を信じた
つまり、**最初は「市場ニーズ」ではなく「個人的な信念」**でした。
しかし彼らは、単なる奇抜な発想で終わらせず、異常なアイデアを「世の中に翻訳」していったのです。
-まず少数者で実験好奇心旺盛なユーザーだけに体験させ、熱狂を起こす
-安心感の設計レビュー制度・保険・ルール・洗練されたUXで「怪しさ」を消す
-価値の言語化「安いホテル」「新しい交通手段」「直感的操作」といった理解できる言葉に置き換える**「不気味」→「面白い」→「便利」→「当たり前」**という順番で、彼らのアイデアは世界に広がっていったのです。
破壊的イノベーションの「兆し」はどこにあるか
では、未来の破壊的イノベーションを見つけるにはどうすればいいのでしょうか。実は、いくつかの「兆し(シグナル)」があります。
🧩 少数が異常にハマっている
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大多数は無関心でも、ごく一部が熱狂的に使っている
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→ 「なぜその人たちはそこまで夢中なのか?」を掘る
🧪 常識的な価値をあえて犠牲にしている
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いまの基準で見ると「欠陥」に見える
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→ 既存基準を壊してでも得ようとしている「新しい価値」に注目
🧠 理屈より「美意識・世界観」で語られている
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「便利だから」ではなく「こうあるべき」と語られている
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→ ビジョンや信念が強すぎる人・チームに注目
🧬 既存の「用途」に当てはまらない
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既存カテゴリで説明できない
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→ 何に使うか分からないが「なぜか面白い」もの
🌍 制度や文化が追いついていない
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法律・ルール・習慣が想定していない
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→ 「禁止されている」のではなく「まだ制度がない」だけかもしれない
顧客に聞く前に、まず「未来を見せる」**破壊的イノベーションは、顧客に「何が欲しいか」を聞いても出てきません。**必要なのは、自分や少数者が信じる未来の世界観をまず形にしてみせることです。
最初は理解されなくても構いません。
小さく動かし、熱狂させ、翻訳し、安心させて、広げていく。
「顧客に聞く」のではなく、
「未来を先に体験させる」──そこから世界は変わり始める。